投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

結界対者
【アクション その他小説】

結界対者の最初へ 結界対者 7 結界対者 9 結界対者の最後へ

結界対者 第一章-8

―4―

 この教室は、もはや地獄だった。

 床一面を鮮血で染め、塊と化した人体の端切れを随所に散らし、荒れ果てた全てをそのままに晒していた。
 そして俺は……
 その全てを自らの赤い瞳に映しても、なおも微動だにしない一人の女と向きあい、ただ呆然と立ち尽くす。

「違う…… 俺じゃない」

 思わずそんな言葉が喉の奥に湧き、囈の様に口から溢れる。
 しかし、目の前の彼女は、それを受けた途端、口許をニヤリと歪ませ

「いいえ、アナタよ」
と突き放す様に言葉を投げた。
 そして、そのまま

「これだけやらかしておいて、今更『俺じゃない』なんて…… まったく、よく言えたものだわ」

と呆れた様に言葉を溢しながら、惨劇の教室へと自らを進める。
 何事でも無いように、ただ平然と。
 そんな異常な状況に戦慄を覚えながらも、俺は辛うじて先程の思考を取り戻し、再び教室の出口へと向かう。

「何処に行くつもり?」

 不意に背中から声!

「警察とか…… 救急車とか呼ばなきゃ……」

 頭の中、そのままの言葉。
 しかし彼女は、再び呆れた様な、溜め息混じりの笑みを鼻先に浮かべると

「必要ない」

と短く告げ、右手を頭上に高く掲げた。

 一体、何を……?

 掲げたその手には、何か時計の様なものが握られていて、有り得ない程の存在感で、銀色に鈍く輝いている。
 懐中時計…… なのか?

 そして、彼女はそのまま、刹那にそれを振り下ろすと

「刻!転!」

と叫び、不意に瞳を閉じた。

 コクテン? なんだ、それ……

 思う、瞬間!
 目の前を瞬く間もなく闇が覆い、体の全てが失われて行く様な、途方も無い何かに襲われる。

 なんだ…… 何が起ったっ!

 俺の周りで闇が廻る、廻る、廻る……
 そして、何か諦めにも似た感覚に全身が満たされたその時!

 再び、目の前に世界は広がり、おそらく俺は…… 何処からか戻って来た。


結界対者の最初へ 結界対者 7 結界対者 9 結界対者の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前