結界対者 第一章-6
「あははっ、さっきオマエがアツくなってた時にさ? 軽くギらせて貰ったぜ」
こいつらっ……
スラれていた。
逃げるのに夢中になってる間に…… 完全にマズった。
「ほら、早く帰れよ?もう用は無いからさ?」
俺のサイフをヒラヒラと見せつけながら、小柄な奴がケラケラと笑う。
返せとわめく訳にもいかず、かといって再び向かえば分が悪い。
畜生、何か方法は……
険悪な雰囲気を読んだのか、既に教室の中からは俺と三人以外の人間は消えていた。
閑散としたその中に、奴らの嘲る声が響きわたる。
「あれぇ? 返して欲しいの? だったら、返して下さいってソコで泣けよ?」
さて、マジでどうする……
「ほらぁ、やれよ! じゃねーと、このオサイフ、チェックしちゃうぜ?」
小柄な奴がサイフを開く素振りで挑発を、俺はまだ動く術が思い浮かばない。
「おほ! やっぱ、こいつ、金持ってる…… あれ、何だ? 写真が入ってるぞ?」
「つぅ、鼻痛ぇ…… 何の写真だぁ?」
待て、それは……
「女だ! 女! あーあ、汚ねえ写真!」
それは…… 俺の母親の……
「何これ? まさかイクト君のママ? ひゃはははっ、イクト君、マザコンさんな訳?」
てめえら……
「あれぇ? 怒ってるの?」
……絶対 ……殺す!
サイフはどうでもいい!
分が悪かろうが構わない!
もう、どうなろうが構わないっ!
こいつらは絶対殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!
「……殺す!」
「面白れえっ! やれるもんならやってみろっ」
刹那!
手近な椅子を掴みあげ、奴らめがけて投げつける。
そして怯んだ所を更に距離を詰め、別の椅子を掴み上げて、一番手前にいる奴の頭に振り落とす!
ガスッ!
鈍い音。
手加減無しの鉄槌。 もしかしたら殺しちまうかも…… てゆーか殺す!
「がぁっ、痛ぇ! てめぇ、汚ぇぞっ! そんな道具なんか……」
「喧嘩に汚ねぇもクソもあるかよ、いいから死ねっ」
椅子を振り上げ、もう一撃……
しかし……
その瞬間、忘れかけていた感覚が……
今朝に、そして昼間に感じた息の詰まる様な不思議な感覚が、再び俺を襲った。
まただ、また、これだ……
しかも、こんな時に……
よりによって、こんな時にっ!
思わず足が止まる。 そして、そのまま動けなくなる。
なんなんだ、一体コレはっ!