結界対者 第一章-5
「ああ、残念残念。じゃあな」
行き過ぎようと踵を返す、しかしその肩をすかさず掴まれる。
「ねえ、待ってよぉ?色々訊きたい事もあるんだよぉ?」
「じゃあな、って言ったけど? 聞こえなかった?」
「ねぇ? 一人暮らしとかしてるんだって?お金持ちなんだぁ?」
「……だったら、どうだってんだ?」
「挨拶代わりに財布よこせや、ひゃひゃはっ! 柊…… イクト君?」
全く、質の悪い……
当然、そんなもの渡す気はないから、軽く身構える。
相手もまた然り、財布なんてのは口実で、ただ単に俺が気に入らないだけらしい。
こっちは、早く帰りたいんだけどねぇ……
「あのさ、帰りたいんだけどな」
「その前に財布だ」
「ああ…… そうかよ……」
揉め事は嫌いだが、仕方が無い。
右腕を背中へ回して、尻のポケットから財布を取り出す仕草をしてみせる。
そして、右に体を捻った反動を使って、渾身の力を込めて……
額を……
突き出す!
ゴスッ、と鈍い音。 俺の額に、微かな痛みとグシャリとした不快感。
目の前のそいつは、慌てて両手で鼻を抑え……
「があっ! 痛え! 痛えじゃねえかっ!」
後退りながらわめく。
その隙を見て体を前に!
とりあえず…… 逃げる!
「自業自得だ、バーカ」
そんな台詞を投げつけてやりながら、今はとにかく現状打開、だ。
また後で面倒な事になりそうだが、今は3対1…… 間違いなく分が悪い。
あまり格好の良い様ではないが……
両足が勢いに乗り、このまま教室の出口へ。
当然、奴らは追って来……
ない!?
異変に気付き振り返ると、視線の先には追うどころか、その場に佇み勝ち誇った様な笑みを浮かべる奴らの姿があった。
しかも、その内の一人、先程頭突きを食らわせた奴よりも一回り小柄な奴の手には、何故か俺のサイフが握られている。