結界対者 第一章-3
そのまま暫く……
歩き回り、この校舎が上空から見ると「ト」の字型になっているであろう事を把握しはじめた頃、俺は屋上へと上り街の景色を眺めてやろうと思い付いた。
おそらく、いつも母親が病室の窓から眺めていた景色が、そこにはある……
階段を踏み上がりながら、胸の内になんとも言えない想いが沸き上がるのを感じる。
しかし、屋上に近付けば近付く程、その想いは何か別のものに侵される様に潰されていった。
また…… だ?
先程の、ここに来て直ぐに校舎を見上げながら感じた、あの妙な感覚。
息の詰まる様な、不思議な存在感。
なんだ、これ……
そのまま階段は上る…… が、本来の目的を忘れてしまう程に、先程の感覚は勢いを増して、まるで俺の全てに絡み付く。
とにかく外へ、外に出て空気に触れたい!
息苦しさを振り払う様に駆け上がる階段。 そして上りきり、鉄の扉を体で押し明け、飛び出した俺の目の前には……
一人の「誰か」が静かに佇んでいた。
制服、ここの女子生徒、肩程に揃えられたた髪……
それら目の前にあるものを把握しかけた俺は、それから放たれる視線に触れ、思わず固まる。
……赤い瞳?
その女子生徒の瞳は……
普通なら黒である筈の双眸は、まるでギラつく赤色灯の様な光を放ち、動けない俺を見据えていた。
「あ……」
何かを言おうと口を開いてみる…… が、自分で自分が何を言いたいのか解らない。
そんな俺に彼女は近付き、そして視線を反らしながら静かに傍らをすり抜けて行く。
一体、何だ……
気が付くと屋上には俺一人、先程の息の詰まる様な、不思議な存在感は消え、白褐色のコンクリートを真上に差し掛かった陽射しが、何事もなかった様に照らしていた。
―2―
約束の時間が迫っている。
だから今、階段を駆け降りている。
昼前、あの妙な感覚を再び感じ、その直後に赤い瞳の妙な女に会い……
俺は何か常識では秤知れないものの間近に自分が居た様な気がして、その後を暫くそのまま呆然と屋上で過ごしてしまった。
時計の短針が1に触れる前に、ふと我に返れたから良かったものの、危うく職員室での待ち合わせに遅れてしまうところだったのだ。
急ぎ駆け付けた職員室の前には、既に先程の山本が立っていて、俺を見付けると「おう!」と慣々しく右腕を挙げた。
まだ会うのは二度目だというのに、つくづく不愉快な奴。
俺は、その不愉快な奴に連れられて、これから自分の教室へと向かう。
「まあ、そんな緊張するなよなぁ? なんてこたぁない、すぐに慣れるさ!わはははっ!」
わはははっ…… じゃねーよ。
いちいち人の神経を逆撫でする奴だ、この山本は。
間違いなく今のでテンションがガタ落ち。
只でさえ、あと数分後の事を考えると憂鬱なのに。