結界対者 第一章-2
今日から俺の通う学校は、街の中程にある神埼西高等学校。
地元では、ありきたりではあるが「西高」と呼ばれているらしい。
先ほどの大通りを真っ直ぐに突っ切り暫く歩くと、その建物の上階部分が見えて来て、やがてその全てが目の前に現れた。
何処となく清廟な雰囲気の漂う白い壁の校舎が、上りかけの陽射しを受けて白く輝き、周囲に植えられた桜は、その隙間に若干の若葉を覘かせながらも、行き過ぎようとする春を留めている。
どこにでもある、始まりの季節の風景。
しかし俺は、この心を躍らせなくてはならない場面で、それとは正反対の……
何か、言い様の無い妙な感覚を感じていた。
息の詰まる様な、不思議な存在感……
何故かそんな事が頭に浮かんだ俺は、不意に辺りを見回す。
しかし、気のせい…… いや、この場所に慣れていないからなのだろうか。
ただ、こんな感覚は初めてなのだ。
まあいい、誰にだって新しさに臆病になる時くらいあるさ。
なんとも不可解な感覚に、無理矢理に近い言い訳を当て付けながら、俺は校舎の中へと靴先を向けた。
事務室で手続きを、それから職員室へ出向き、先程思い描いた通りに午後の授業から出席させて欲しいと申し出てみる。
応じた三十代中場程の上下のジャージをピシッと着込んだ教師は、初めは困惑した様子を見せたが、こちらが名を名乗ると急に神妙な面持ちになり、憐れみを浮かべながら言葉を並べ始めた。
「君が、あの柊イクト君か。 お母さんの事は残念だったね」
こいつ、初めて会う癖に、解った様な事を……
不愉快、だから思わず視線を外す。
しかし、その教師は、そんな此方には構わずに、自分が二年の学年主任であり担当が現国である事、名が山本である事を告げると
「午後の授業は一時十分からだ。だから、一時にはこの職員室に来ていて欲しい。
それまでは二時間程あるから、校内を見て回ってもいいし…… そうだ、昼食は学食でとるといい」
と言い置いて、慌ただしく職員室へと消えた。
初めての、まだ挨拶もしていない学校の学食で飯なんか食えるかよ……
あの山本、相当な善人気取りだが、中身は空っぽだ。
失望の、とういうよりは呆れた溜め息が思わず口から漏れる。
しかし、そのままここに居る訳にもいかないから、俺は学校の中を時間まで見て回ろうと思い、ゆっくりと職員室前の薄暗い廊下から歩を進めた。
別に、山本に言われたからじゃない、自分の意思だ。
校舎の中は思いの他広く、以前通っていた学校には無かったパソコンの何かを勉強する部屋や、大きなスクリーンのある部屋が俺の興味を惹き付けた。
悪くないな……
それは先程の不愉快な気分をかき消すには十分で、俺はそのまま校舎の中を少し軽くなった気持ちを連れてフラフラと歩いてみる。
二階から、三階へ。
授業中だから多少は遠慮しつつも、歩き回った事で得た此処への印象は悪いものではない。