結界対者 第一章-18
「間宮、しっかりしろ、間宮っ!」
「…………」
破れた制服、特に忌者に掴まれた両腕が酷い。
制服が破けるどころか、その切目から覗いた皮膚は火傷の様にただれ、赤黒く惨い姿を晒していた。
「間宮っ!」
「…………ひ……いらぎ?」
眩しそうに、しかし力無く瞳を開く間宮に、思わず安堵の笑みを浮かべてしまう。
「大丈夫……か?」
「柊…… 忌者は……?」
「大丈夫、なんとかした」
少しだけ、間宮が体を震わせたのは驚きの為だろうか。
そのまま「あなたが?」と続けようとした様だが、声にならないらしく開きかけた口許からは吐息だけが漏れた。
「辛いなら、あまり喋るな…… いや、どうすれば良いかだけ、なんとか教えて欲しい」
「時計を……」
「え?」
「私の…… 胸のポケットから時計を……」
間宮の制服の、胸のポケットからは銀の鎖が覗いている。
おそらくそれは、教室で時間を戻した時に使った、あの銀の懐中時計のものなのだろう。
これか……
その鎖の位置が位置だけに、触れるのを少し躊躇う。
しかし、それどころではないから、俺は鎖を摘み、引き出して
「これだな?」
と間宮の眼前にかざした。
「……そう、それを、私のお腹の上に置いて」
「……?」
「両腕が…… 利かないの、だから……」
言われた通りに、時計を仰向けになった間宮の腹の上に載せる。
すると間宮は「刻・解・刻・転」と呟き、再び瞳を閉じた。
そのまま、二人の周囲に訪れる不自然な闇……
しかし先程の、教室の時の様に驚きはしない。
それは、言うまでもなく、間宮が何をしようとしているのか、解るからだ。
おそらく間宮は、停めた刻の流れを再び流し、その後で更に少し時間を戻して、自分や周囲を回復させるつもりだろう。
教室で、あの「三馬鹿」を救った時の様に。
しかし、そんな事をして、忌者までもを回復もとい復活させてしまわないものだろうか……
闇の中に光が生まれ、それは益々大きくなる。
やがて、それは更に大きくなり、元々居た日常の世界へと姿を変えて、俺達のもとへ帰ってきた。