結界対者 第一章-16
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訳の解らないまま、明かされた真実。
訳の解らないまま、始まった戦い。
そして今、
頭上、蒼窮には敵が在り、そして瀕死の間宮が在る。
間宮を助けるんだ……
俺の、内から湧き出る旋風は、地を這い舞い上がり、遥か宙空へと猛然と吹き抜ける。
その刹那を感じた忌者(いまわのもの)が
「貴様…… 旋風桜(つむじざくら)の……」
不意に声を漏らしたその時!
風は、間宮を対の腕で捕えているが故に無防備な忌者の背後に迫り、刃の如き鋭さでそれを斬り裂いた。
「ダガァァァァァァァァァァァっ!」
おそらく苦痛の叫び。
地を震わせ、その空をも焦がしそうな灼熱の倣叫が、辺り一面をビリビリと震わせる。
そのまま程近く立ち並ぶ電信柱にまで伝わるそれは、空を走る架線がユサユサと揺れる程の轟音。
そして、叫び続けながら悶える忌者は、治まらぬ痛みと怒りの為か、不意にその掴んでいた腕先を緩め、間宮の躯を宙へと放り解いた。
間宮が…… 墜ちる!
放たれたその躯が、地平に向けて加速していく。
致命的な高さ、致命的なスピード。
受け止めなくちゃ……
風に祈る!
間宮の墜ちるその先より、間宮へ向けて救いの逆風を!
直後、巻き上がる風は墜ちゆく間宮の躯を捉え、その吹き上がる力で間宮が受ける筈であったであろう残酷な衝撃を「トスッ」っという極めて軽い音に変えた。
忌者は悶えたまま、その叫びこそ潰えたものの、奮える眼孔で此方を睨みながら、誅戮の念を向ける。
「貴様…… やりやがっっったなぁぁぁっ!」
動けない…… それ程の気迫。
しかし、逃げる訳にはいないのだ。
間宮が倒れた今、なんとかするのは俺……
なんとかしなければならないのは俺!
向き直り敵を睨む、間宮が先程そうした様に。
そして、次に何をするべきか、それだけに対して緊迫で硬張る思考を巡らせる。
俺の風は、俺の意思に忠実……
ならば、この目の前敵をどうする?
斬るか……?
倒すか……?
殺すか……?
忌者は身構える、そして今にも、その先手を此方に下そうと荒息を口元に湛える。
間宮ならどうするんだ……
再び先程を思い出す。
間宮は…… あの拳銃の様な……
ユルシノタントウで忌者を「消し去る」と言っていた。
ならば!
決意の刹那、忌者は此方に、その全てを向ける。
そして、地を蹴り、殺戮の疾走で此方に迫る!
俺に…… やれるか!?
今感じる、この感覚の全てが恐怖。
それが、俺の喉を干し、歯を軋ませ、胸枢を張り裂けんばかりに突き動かす。
しかし、やるしかないのだ!