ICHIZU…C-1
ー7月ー
気象台による梅雨明け宣言がなされ、殺人的な日射とセミの大合唱が響く頃。佳代達野球部は中体練の大会を10日後にひかえていた。
「今から1回戦の選手を発表する!」
練習後のミーティング。監督である榊の発言に、2、3年生は直立不動のまま、神妙な面持ちで次の言葉を待つ。
「ピッチャー川口…青木…、キャッチャー山崎…山下。…」
監督が読みあげる名前に、喜々する者と落胆する者。選抜されるメンバー枠は、控えを含めて25名。2、3年生を合わせれば、その数を遥かに超える人数となれば、おのずと誰かは落選する。
強い者だけが選ばれる世界。
そんな中、2、3年生でひとり、涼しげな顔をしている者がいた。佳代だ。
(どうせ私みたいなヘタッピ。選ばれるハズないし…)
試合に出たい気持ちはあるが、客観的に見て今の自分では無理と把握しているようだ。
「以上24名と…」
榊はそう言うと、全員にあてていた視線を一点に集めた。
「最後のひとりは澤田!オマエだ」
榊の発言に、いっせいに部員の視線が佳代に集中する。が、とうの佳代は、うつ向いたまま榊の話が終わるのを待っていた。
「オイッ!」
となりに立つ直也が佳代の脇腹にヒジを入れる。
「イタッ!…何なの!」
痛みから思わず脇腹をおさえて怒鳴る佳代に直也は小言で、
「監督が呼んでるぞ!」
佳代はすぐに榊の顔を見る。榊は“呆れた”というような苦笑いを浮かべてから、大声を挙げた。
「カヨーッ!オレの話はつまらんか!」
「す、すいません!」
佳代は帽子を取ると、深々と頭を下げる。榊はすぐに柔和な顔に戻すと、
「佳代。オマエはライトの控えだ!いいな」
「へっ?」
佳代の頭は榊の言葉を理解していなかった。直也が耳打ちする。
「オマエは25人枠に選ばれたんだよ…」
直也の言葉に、佳代の頭はパニックを起こした。
「エッ?……えええええっ!!」
佳代は榊の顔をマジマジと見つめると、
「か、かんとく!…わ、わ、わた…わたし…私…出るの?…」
榊に聞いている佳代の身体は震え、視線は宙を舞う。まるで催眠術にでもかかったように。