想い、一筋-1
初めて告げた「さよなら」は虚空を舞う。美佳と俺との間を行き来するこの不条理な空気は、今でもそれを飲み込もうとしてはくれない。
「……」
彼女は何かをボソッと呟き走り去る。ちゃんと聞こえてたけど、聞こえないふりをしてやり過ごそうとする俺は……。
「卑怯者が……」
そう、自分でも実感出来るほどに卑怯だと思う。彼女の気持ちを知っていて、それでも衝動は止められなかった。俺は彼女に別れを告げたんだ。告げた……はずなのに……。
「クソっ」
俺の意志とは関係なく、体は彼女を追っていた。小さくて、細身だけど足の速い彼女を捕まえられるかは分からなかったが、それでも俺は走っている。そして、彼女の泣いてる背中に追いついて、
「ごめん」
それだけでわかってくれる。それは二人が通じ合ってる証拠。美佳を抱き止め、想いを受け入れる。その時だけは、自分の真価を知った気になれるのは……気のせいじゃないはずだ。
end