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「僕だよ、僕。開けて」

 きぃちゃんだ。

 でも、こんな、涙でぐしゃぐしゃになった顔を、きぃちゃんに見せたくないよ…。

 …何回も、見られてるけど。

 …顔を洗うのも、今はだるいし。

 …きぃちゃん、会いたいよ…。


「…また、泣いてるんだ」

 ……。

「どんなに汚れてたって、僕がちゃんとキレイにしてあげる」

 …キレイになんて、ならないもの。

「温もりが欲しいなら、いつでもあげるから」

 きぃちゃんはいつも、ドア越しでもわたしの全てを見透かしてくる。


 ドアを開けた。

 鞄を肩に背負う制服姿のきぃちゃんが立っていた。

「ああ、やっぱり泣いてたの?」

 よしよし、と、きぃちゃんの温かい手が、わたしの小さな頭を擦る。

 それだけで、悲しみが爆発する。


 毎回毎回、頭を撫でられる度に泣いてしまう。

 他の人には触れられたくないけど、きぃちゃんにはもっと触れられたい。

 なのに、いざ触れられたら泣いちゃうんだよ。

 本当は触れられたくない、頭を撫でてほしくないって、心の奥底のどこかにいるわたしが、考えているのかな?そうなのかな?

「…たぶんね、たぶんだよ?それは違うと思う」

 なんで?

「人に触れられてもらえる嬉しさと、『わたしのせいできぃちゃんに迷惑をかけてる』って思考が、混ざってごちゃごちゃになって、それで泣いちゃうんだと思う」

 ……そう、なんだ。

 …きぃちゃんはすごいね。


「でも、僕は一度も迷惑だと思ったことはないよ」

 ………。

「逆に、もっともっと好きになってしまいそうで、少しばかり怖いんだ」

 顔を真っ赤にしながら、はたして照れ隠しなのか、あははと笑っているきぃちゃん。

 …きぃちゃんは、絶対に笑顔を絶やさない人。

 そこが、好きなんだ。


 恐ろしいくらいに、大好き。


 中に入るなり、きぃちゃんはさっきの壊れた時計を一瞥して、何も見なかったかのように、わたしに話しかけてきた。


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