刃に心
《第24話・忍者探偵忍足疾風の事件簿〜お調子者を殺したのは誰か?
次々と明らかになる友の暗い心。
まさか犯人はこの中にいるのか?
果たして疾風は友を疑えるのか?
『湯煙温泉彼方殺人、
尚、今回のタイトルは本編と一切関係ありません事件』》-2
◇◆◇◆◇◆◇
ガタガタと電車が揺れる。時折、ブレーキを軋ませながら、次の駅に向けてレールの上をひた走る。
「疾風、何処へ行くつもりなのだ?」
扉付近に備え付けられている銀色のパイプを握り、楓が問い掛けた。
「親戚の兄さん家」
吊革に掴まった疾風が答える。
「親戚など初耳だな。やはり、お前と一緒なのか?」
「いや、忍者じゃないよ。伯父さん───つまり、その兄さんの父さんってのが、母さんの兄なんだけど、母さんの家系は元々、くの一の家系なんだ。
だから、男である伯父さんはあんまり修行しなかったんだ」
疾風が喋り終えた時、ちょうど電車が止まった。
駅から多くの人が車内に雪崩れ込み、場所が少なくなっていく。
「混んできたな。大丈夫、楓?」
「ああ」
プシューとドアが閉まり、再び電車が動き出した。
「それに従兄弟の兄さんも、忍者なんか古臭くてやってられっかー、みたいな人だから」
「なるほど」
ガタンッ!
楓が納得した瞬間に電車が大きく揺れた。
「おわっ!」
それによってバランスを崩した人に疾風は押された。
ドンッ、と突き飛ばされた先には楓。
二人は思わず抱き合うような体勢になってしまった。
「………」
「………」
二人とも一瞬ポカンとしたが、すぐに顔を朱が覆う。
「ご、ごめん!」
「い、いや…混んでいるのだから仕方あるまい…」
楓の髪が疾風の頬を撫でる。
ほのかに甘い香りが漂い、鼻腔をくすぐる。
心臓のビートが上がっていくのが判った。
楓も同じだった。
倒れかける疾風を支えるため、咄嗟に出した両手が予期せずして疾風の腰に回っている。
ふっと顔を上げた。
簡単に触れられる位置に疾風の顔があった。
さらに顔に熱が込み上げる。気恥ずかしくて、楓は思わず俯いた。
車内は尚も混んでいて離れられない。
「つ、次の駅だから!」
生々しい体温と吐息に耐えられなくなった疾風が言った。
楓はただ黙って頷いた。
気恥ずかしいが、楓は少し嬉しかった。
───こんなに近くに疾風がいる…
物理的な距離だけではないような気がする。
楓は疾風の胸に顔を埋めると、疾風に気付かれない程度に自らの両手に力を込めた。
そんな車内の様子など微塵も気にすることなく電車は走っていく。
『次は〜、黄泉山〜、黄泉山〜』