ツバメH-1
布団に潜り込み、今日の出来事を反芻していた。
桜実くんの突然の告白。
燕を否定されたうえでの。
狩羽鷹の意味不明な行動。
抱擁、そしてキス。
正直、眠れる状態ではない。
あたしは、あの後、走ってタクシーに乗り込み家路に着いた。
彼は追いかけてこなかった。
ほとんど初対面なのに、彼はなぜあんなことをしたのだろう。
一目惚れ?
それならそれで、あのようなやり方をする意味がわからない。
気持ちを表現するのに、あんなやり方しかできない人?
……もう考えるのはよそう。
無駄だよね。もう会わないだろうし。
でも彼の、吸い込まれそうな瞳が忘れられないでいるのだった。
第九話
さよなら
三日が経った。
桜実くんからの連絡はない。
もちろん狩羽鷹からも。
考えないようにしても考えてしまう。
「やあ、久し振り」
『えっ?』
目の前には福岡孝太郎くんが立っていた。
「僕のこと、忘れた?」
『んーん!考え事してたから!』
彼は相変わらず留まることなく社内外を動き回っているらしく、かなり久し振りだ。
「きみはなんだか、いつも悩みを抱えているように見えるけど」
『……よく言われる』
「……時間あるし、お茶でもどう?」
まだ昼休みは始まったばかりだ。断る理由はない。
『もちろん、でも大丈夫?』
「最近やっと落ち着いてきたから」
『……そっか。相変わらずモテてるの?』
彼は即座に困った顔をする。
「はは、いちおう。“あのこと”はバレてないし」
“あのこと”とはもちろん、彼がオタクだということ。
『じゃあさ、一日に複数の人に告白されたり、キスされたことある?』
彼はよほど驚いたらしく、目を真ん丸にする。
あたし自身もバカな問いだとは思ったけど。
「……キスはないけど、告白は何度か」
やっぱりキスはないよね。
『それで、どうしたの?』
「やっぱり今はとにかく忙しくて、恋愛なんてできないからね」
そりゃそうだ。