Boys, be brave!-3
手を進める中、ときおり、バレないように彼女を見つめたり、わざと必要のない事を聞いてみたり。
それでもゆっくりとした時間は確実に流れ、気が付けば、夕日は体の半分を山へと沈めていた。
「もう少しだね」
「…うん。もう少し」
もう少しで、この新聞は完成してしまう。
共同作業が、終わりを迎えようとしている。
「あ、三谷くんはそっちのコメントを考えて。私はこっちを書くから」
いつもの事だけど、完成する少し前のこの時が一番寂しいような…、あっけないような…。
あの夕日が沈まなければいいのに。
時計の針が進まなければいいのに。
もっと、もっと長くこうしていたいのに。
そんな風に考えていても、やっぱり時間は流れるわけで…。
「よし、出来た!私は終わったよ。三谷くんは?」
「う、うん。あとちょっと」
わざと遅らせながら書いても、短い文章はすぐに書き終えてしまい、とうとう新聞は完成してしまった。
「やっと終わったね。お疲れさま〜」
「あ、待って。間違えないか見直さなきゃ」
「それはいいよ。あとは私がやるから」
「でも」
「いいって。ここまで付き合ってくれただけでも、とても感謝してるんだから」
その感謝を込めた笑顔が、余計に僕の心を切なくさせる。
だから、言っちゃった。
「僕は、副委員長だから」
「え?」
「あ、ほら、僕は副委員長だからさ、委員長を手伝わなきゃいけないでしょ?」
「それは…」
「それに、僕を副委員長にしたのは委員長だよ?」
どうしても一緒に居たくて、思い付くこと全部言って言い訳をした。
そうしたら、彼女の表情は申し訳なさそうになって。
「…ごめんなさい。私があの時余計なこと言っちゃったから…。副委員長なんて、嫌だったよね?」
「あ、違うんだ。そうじゃないんだ。いや、まあ、最初は嫌だったけど…。でも、今は楽しいよ。新聞委員になって、副委員長になれて、とても良かったと思ってる」
「本当に?」
「うん。本当に。だから、ね?手伝うよ」
「…そう。それじゃあ、甘えちゃおうかな?」
一時はどうなるかと焦ったけれど、どうやら彼女はそれで納得してくれたようだ。
ふぅ、と安堵の息を吐いて、あらためて新聞を見直そうとした時、ようやく気付いた。
出来上がった新聞は、逆さに読むのが難しいことに。
「あ、ごめん委員長。これじゃあ読めないよね?」
僕はすぐに新聞を反転させようとした。
「でも、それじゃあ三谷くんが読めなくなるでしょ?だから、こうすればいいんだよ」
と彼女は言ったあと不意に立ち上がって、椅子を引っ張りながら僕の隣へと来て、座った。