Boys, be brave!-2
「おい、三谷。あの子可愛いくないか?」
和也の小声での問掛けは、僕の右耳から左耳へと抜けていった。
「三谷、おい!」
やっと和也の声を僕は受け止め、ハッとして相槌を返す。
「う、うん」
その反応を妙に思ったのか、和也はしばらく考え込んだあと、急にニヤニヤとしだした。
「はは〜ん。お前、惚れたな?」
「…え?…なっ、ええ!?何言ってんの!違うよ!違う違う!全然違う!!」
突然の和也の言葉に動揺して、僕は大声を出してしまった。
「あ、バカ。声でかいよ」
「しまった」
気付いた時にはもう遅く、周りの視線は僕たちに向けられていた。
もちろん、彼女の視線も…。
「どうやら、君達は中山さんの立候補に意見があるようだね?」
冷ややかな注目の中、静かな声が背後から掛けられる。
僕と和也は、恐る恐る背後に立つその声の主を見上げた。
「いや、違いますよ。それはですね、ええっと…」
目が笑ってない笑顔で腕を組み、見下ろす教員。
和也はそんな教員に、何とか必死に取り繕うとしていた。
それなのに僕は、チラッと彼女を横目で見てしまい、そして目を合わせてしまった。
「あっ」
慌てて視線を外すと、それを合図にしたかのように彼女が言った。
「先生。では、彼らを副委員長にしてはどうですか?」
「………は?」
訳の分からない暴言と受け取れるその言葉に驚きながらも、僕たちは再び教員を見上げた。
そして、諦めた。
「それはいいですね。では、君達には二人で副委員長となって頂きましょう」
これはもう決定なのだと言わんばかりの教員の表情。
僕と和也はうなだれて、二人で顔を見合わせながら肩を落とした。
「頑張るのですよ。二人とも、返事は?」
「…はい」
こうして僕たちは副委員長となり、彼女を手伝うこととなったのだった。
あの時の和也は、嫌そうに諦めのため息を吐いて観念したものの、一度だって手伝うことなどしなかった。
まあ、それは他の委員も同じことだけど。
でも、僕はそれについて全く腹を立ててはいない。
いや、むしろ感謝しているくらいだ。
なぜなら今、こうやって、彼女との二人きりの時間を過ごせているのだから。
多分、彼女は新聞を完成させることだけに意識を向けていて、この状況にはたいして意識をしていないのだろう。
けれど、僕にはこの新聞製作という共同作業が、とても特別で、とても大切な時間だと感じていた。