恋に恋するお年頃!?-1
「ごめんなさい!」
小谷 恵(こたに めぐみ)は、放課後の教室でクラスメイトの中澤 智久(なかざわ ともひさ)に頭を下げた。
高校に入学して早3ヶ月。
入学式で一目惚れをしたという智久に告白されたが、恵の心は動かなかった。
2人しかいない教室に、気まずい沈黙が続く。
「本当に、ごめんなさい…。」
別に、他に好きな人がいるというわけでもない。
だから、智久に対しても謝ることしかできない。
「ごめ……っ」
「もういいよ。そんなに何度も謝られると、返って辛くなる。」
恵の謝罪は、智久の言葉に遮られた。
「あっ。ごめ……」
また謝りそうになり、恵は慌てて口を噤む。
「ははっ。……じゃあ、これからもいいクラスメイトでってことで。」
そう言い残して、智久は一人教室を出て行った。
後に残った恵の胸に、智久の乾いた笑いが響く。
一人残された恵は、窓の外を眺めながら大袈裟にため息をついた。
高校に入学してから、急に周りが恋愛に対して、積極的になったような気がする。
彼氏はおろか、初恋もまだの恵にとってこの変化は、喜ばしいものではなかった。
『だいたい、友達としての"好き"と恋愛の"好き"はどう違うの?』
……なんて、周りに相談した所で、お子様扱いされるのは目に見えてる。
友達の恋愛話には、適当に相槌をうっているが、恵自身の恋愛はまだまだ先の話のようだ。
―翌朝―
「おっはよ〜!」
駅から学校までの道の途中で、森川 美智子(もりかわ みちこ)に声を掛けられた。
美智子は、中学からの友達。
もう一人、高校に入ってから仲良くなった砂原 雅美(さはら まさみ)と3人で一緒にいることが多い。
「どうしたぁ〜、メグ?元気ない?」
恵の顔を覗き込みながら、美智子が尋ねる。
「う〜ん……。ちょっとね。昨日あんまり眠れなくて……。」
眠ろうと目を閉じると、智久の乾いた笑いが蘇り、なかなか眠ることができなかった。
気持ちに応えられず、傷付けてしまったという罪悪感が、恵を苦しめていた。
「わかった!!また、本読んでて夜更かししたんでしょ?!」
恵は今時の子には珍しく(?)、読書が趣味。
明け方まで本を読んでる……なんてこともよくある。
「うん…。まぁ、そんなとこ。」
昨日の智久との事を話すとなると、初恋がまだって事まで話さなきゃいけなくなってしまう。
恋愛話が苦手な恵には、どうしても避けたい話題。
適当に、話を合わせてかわすことにした。