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自己紹介からはじめよう
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自己紹介からはじめよう-1

「顔、かなぁ」

暗闇の中、僕の腕を枕に使った彼女が呟いた。
襲いかかっていた眠気が途切れて、慌てて彼女の髪をなでる。
「顔って、なんのこと?」
「えっちする前に訊いたでしょ?『どうして?』って」
「ああ…」
そのことか。声かけて即OKだったから一瞬詐欺かと思ったんだよ。
「もしかして、覚えてないの?」
見えなくても何故かわかる、厳しい視線をさりげなくそらす。
「答えないから、教えてくれないと思ったんだよ」
我ながら巧く返した。
「だって、あのときはわからなかったんだもん…」
ご機嫌斜めのままに寝返りをうって、わざと背を向ける。
「で、出た答えが顔なんだ?」
僕も同じ方向に寝返りをうって、後ろから抱きしめるようにして訊いた。
「そう」
文句ある?とでも言いたげだ。
僕の顔はまあ、悪くない。っていうか、いい方なんじゃないの?
と、自分では思ってみたりしている。
「言っとくけど、かっこいいとかとは違うから」
ばっさり。
「じゃあ、何?」
ちょっとふてくされてやる。
「似てるのよ」
げっ。絶対好きな奴オチだろ。くどい恋話なんて聞きたくねー。
「…誰か訊かないわけ?」
すかさずやってきた甘えという名の『脅し』。
「…誰に?」
望み通りのリターンをして、寝る準備にかかる。
「私に」
「……」
予期せぬ答えにまた眠気が飛ぶ。まさか…。
「言っとくけど、ナルシストとかじゃないから」
それは短絡すぎだとは思ってましたとも。
「私たちって、会って何分?」
「…一時間はたったかな」
「言っとくけど、私、ほんとはすっごい人見知りだし」
「うん」
なんとなく、わかる。
「こんな簡単になんて、絶っっっ対にできないんだから」
「うん」
ちゃんと、わかってる。
彼女が僕の手を恐々と握った。
「顔見たとき…鏡を見てるみたいって、思った」
「鏡…?」
「うん…。今まで何万回も見てきた自分に、やっと会えたって感じがした」
「……」
「……」
僕が黙ると、彼女も黙る。
そっと彼女の向きを変えて、手のひらで頬を包み込んで向かい合った。
しばらく目を閉じてから開けると、現れたのは白黒の、鏡─。
奥二重の大きな目。視線が重なっても、照れも、気まずさも起こらない。
生まれるのは『知っている』安心感。
「うん…。ちょっと似てるかも?」
僕の言葉に彼女が微笑む。僕も微笑む。
「言っとくけど、私の方が何万倍もかわいいから」
「やっぱりナルかよ」
そのまま抱き寄せて、おでこにキスをした。
溢れ出す不思議な感覚。追いかけるように眠魔が徒党を組んでやってきた。
ちらっと見たら、彼女のところにもきているみたいだ。
とりあえず一眠り。
そして、目が覚めたら─。

『自己紹介からはじめよう』





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