『傾城のごとく』-9
千秋はため息を吐きながら、
「ペットを飼うってお金掛かるんだねぇ。私、こんなに持ってないや…」
すっかり意気消沈してペット・ショップを出る千秋を亜紀が慰めようと、
「あのさ、ウチの猫のさ、仔猫の時に使ってた寝床やトイレがまだあると思うんだ。もう使ってないから良かったらあげるよ」
千秋は亜紀の言葉に感激し、涙が溢れてきた。
「ありが…とう…亜紀ちゃん…」
それを見た亜紀はびっくりすると、千秋の頭を撫でながら、
「あーん、泣かないの。それよりもさ、家に帰ったら今日こそ言わないと」
千秋はただウンウンと頷くだけだった。
夕闇がせまり外灯が瞬く頃、千秋は例えようのない高揚感に包まれながら、自宅へと向かった。
千秋が自宅に着いたのは7時を少し過ぎていた。先ほどまでの高揚感は無く、逆におっくうに感じている。
(また、お姉ちゃんが嫌味を言うんだろうなぁ。それでなくても今日こそ仔猫の事を話さないといけないのに…)
そう考えるだけでお腹が痛く感じる千秋だった。
「ただいま」
キッチンに向かうと、母と姉が昨日と変わらず夕食を摂っている。千秋の顔を見るなり姉の小春が、
「今日も遅かったね。また男と遊んでたの?」
と、これまた昨日と変わらぬ嫌味。千秋は“この野郎!”と思いながら小春に言い放つ。
「そうよ!お姉ちゃんには経験無いでしょうがね」
この言葉に今度は小春が怒った。
「なんですって!中坊のクセに男と遊んで帰ってくるなんて生意気なのよ」
千秋も負けていない。
「だったら、お姉ちゃんも男作ってたまには遅く帰ってきたら!夕方5時にはいっつも家に居るクセに」
母は、しばらくの間二人の口喧嘩を眺めてからお互いを叱りつける。
「またアンタ達は!姉妹でいがみ合って。ホラッ、ゴハン食べなさい」
「お母さん。私、先にお風呂に入るよ」
千秋はそう言うと着替えを持って風呂場に向かった。小春はそれを眺めてから母親に、
「お母さん。あの娘どうしちゃったの?」
「その時になったら言うわよ」
笑みを浮かべながら言う母。まったく不安に感じていないようだ。
千秋は湯船に浸かりながら考え込んでいた。