『傾城のごとく』-11
雨は振り続け、外は寒さを増して行く。雨だけでなく雷も伴う夜。ベッドの中で千秋の気持ちは昂なり続けた。
父の“生き物は確実に君より早く死ぬ”と、獣医の“いずれ殺処分されてしまう”という言葉が頭の中で重なり合い、自問自答する。
(自分は慈悲の気持ちだけで飼おうとしてるのじゃないか?今後、仔猫が天寿を全うするまで面倒を看れるのか?)
いくら考えても結論は出なかった。
ー翌朝ー
その日は朝から雨だった。
千秋は力無く、トボトボと傘をさして学校に向かっている。
「おっはよー!千秋」
亜紀だ。亜紀は元気一杯に千秋を呼んだが千秋の方は、
「おはよう。亜紀ちゃん…」
と、消え入りそうな声で答える。それを見た亜紀は“まーた、この子は落ち込んじゃって”と思うと千秋の肩をポンッと叩いて、
「私に相談が有るんでしょう?」
千秋は少し驚いた表情で亜紀を見ると、
「亜紀ちゃん。私、そんな顔してる?」
「もーう、世界中の不幸を一身に背負ったような。ンフフッ。相談なら私が聞いてあげるからさ」
「うん。ありがと」
千秋は少しはにかむように微笑む。
「そうそう、その笑顔で。あんたに暗い顔は似合わないよ。それから…」
そこまで言うと亜紀は真面目な顔で、
「遅刻しそうだから走るよ!」
二人は学校へと駆けて行った。
ー昼休みー
体育館の外階段下に並んで座る体操服姿の千秋と亜紀。
「午後から体育だし、ここなら昼休み一杯話を聞けるよ」
亜紀の言葉に千秋はうつ向いて、
「夕べ仔猫の事を家族に言ったら…」
千秋は父の言葉、獣医の言葉、それに自分の気持ちをトツトツと語りかける。亜紀はそれを黙って聞いている。そして、千秋が話し終えると言葉を選ぶように話しかけた。
「ウチはさ、猫の前に犬が居たんだ。私が生まれた時に父さんが飼ったんだ。私が小学校4年の時に死んだんだけど…最期って時に……家族皆んなの…顔を見たんだよ……う、動けない身体を…必死に…起こして…」
亜紀の声は、いつしか涙声だった。聞いていた千秋も顔を伏せっている。