罪と罰-2
「さーのん、桜借りてくよー?」
「はいよーん」
泉をさーのんと呼ぶ人物。名を石橋 星夜と言う。先程のやり取りで彼を恋人と感じた人がいるだろうが、彼は恋人ではない。周りに何と言われても、星夜は私の幼なじみだ。
私達は、その辺のカップルより仲が良い。傍からみれば、恋人同士に見えるだろう。しかし、私達が恋人同士になる事は絶対に有り得ない。そんな陳腐な言葉で片付けられたら、どんなに楽だろう。
「今日はちゃんと来たんだな?エライエライ」
と、私の頭を撫でる彼の手が大好きだ。
「今日はねー、パパに起こされてさぁ。次のテストで20位以内に入ったら新しいパソコン買ってくれるって。パパも馬鹿だね。あたしには、星夜って言うスパルタ家庭教師がいるのに」
「それ、ほんと?いいなぁ。じゃあ俺も桜の家庭教師張り切らなきゃ!」
「のんきよね、あの親父も」
「…さくら」
星夜の、いつもより少し低い声が私を呼んだ。
「そーゆー言い方はしないって約束だろ?」
「わーかってる。ごめん」
「素直でよろしい。今日、家寄ってくだろ?」
「…お母さんは?」
「桜に会いたがってだぞ」
「あははっ。昨日会ったけどね」
「決定。帰り、教室で待ってろ」
「あいよ。…ねぇ」
「ん?」
「ギューして?」
「さくら。人のいる前ではしない約束だろ?そう言い出したのは桜だろ」
「…だよね。ごめん」
「後でな。家帰るまでの我慢。できるか?」
うん、と頷いて彼の手を握った。私は、彼に触れていなければ落ち着けない。きっと、私と彼は一つなのだ。比喩ではなく。
何とか授業を過ごし、放課後になった。
「さくらー!じゃああたし帰るね?」
「うん、またね。気をつけて帰るんだよ」
「はいはい。いっちゃんによろしく」
泉と別れ、星夜を待つ。星夜のクラスは担任の話が長く、たまに学校に来て一緒に帰っても私が待つハメになるのだ。
− 本でも読もうかな −
と、小説を取り出した時
「川上さん?」
「え?」
突然、話し掛けられた。否、問い掛けられたに近いだろうか。