刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-2
「疾風ッ!」
どんっ、と千夜子が最前線にいた疾風を突き飛ばした。
───ガガガガガガガガッ!!
鼓膜を引く裂くような射撃音。
その重厚な楽器から流れる破壊的なメロディーに、千夜子の声は塗り潰された。
銃声が止んだ。
比較的後方にいた為、地に伏せて銃弾を避けることができた楓と眞燈瑠と彼方、それと助けられた疾風が何とか起き上がる。
しかし…
「チョコ先輩ッ!!」
疾風に覆い被さるようにして倒れた千夜子はピクリともしない。
「逃すなッ!」
「目を閉じるッス!」
カッ、と眩い閃光がほとばしる。
「ちっ…」
霞が再び目を開けた時に残っていたのは静かに横たわる朧と千夜子だけだった。
「閃光弾か…」
呟きながら、足元に転がるボコボコとした形の手榴弾を蹴飛ばした。
コンコン…と乾いた音が廊下に響く。
「逃げられたけど…まあ、いいわ。
まだ、秘策があるし、それに…自らを犠牲する愛ってなかなか見物だったもの♪」
くすりと微笑むと霞は一歩、前に出る。
「さて、これからの指示を貴方達に与えるわ」
さらにもう一歩。
「私が下す命令はただ一つ」
そして、くるりと振り向き、言った。
はためく深紅の証。
「殲滅しなさい」
『サー、イエッサーッ!!』
カツンッ。
見事なまでに統制された動きで踵が鳴る。
霞は「行けッ」と言うように右手を振った。
漆黒の外套が翻る。まるで、そこだけ闇が濃くなったかのようだった。
「さあ、楽しみましょう…♪」
◇◆◇◆◇◆◇
疾風達は反対側の──つまり【日】の真ん中の棒に当たる──校舎にある視聴覚室にいた。
装備の幾つかは逃げる時に捨ててしまった。
それに加え、朧と千夜子。そして、逃げる途中ではぐれた彼方など、戦力も約半減の状態である。
「くそっ…」
疾風が忌々しげに壁を殴り付ける。
そこにスッと闇の中から刃梛枷が姿を見せる。
「刃梛枷ッ!お前、何故、あの時に来なかったのだッ!」
「……ごめんなさい…」
楓の怒声に刃梛枷は小さく謝り、俯いた。