刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-10
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柄に手を掛け、何時でも抜刀できる状態だ。
しかし、抜けない。
対峙するのは機関銃。
間合いからして不利である。
無論、楓だって距離を詰めようとしなかったわけではない。
だが、こちらが動こうとすれば彼方はそれに逸早く反応し、牽制する。
元々、彼方の身体能力は低い方ではない。それが霞によって操られ、強化されている今は楓と互角の力を備えている。
(くっ…こやつ、いつもは役に立たぬくせに、敵に回すとこんなにも厄介だとは……)
心の中で毒づく。
(それに…)
楓も気付いていた。
疾風の動きにキレがない。
原因は自分。
疾風は常に楓との距離を一定に保っている。
その気になれば瞬時に楓を助けられる位置だ。
(足手まといになるわけにはいかぬ)
姿勢を低くして、タッ、と地面を蹴った。刃を返し、下から斬り上げる。
彼方は身体を後ろに仰け反らせた。
前髪を切っ先が掠めた。
「もらったぁ!」
引き金に指が掛かる。
いくら楓の居合術が凄かろうと完全に抜き払った今の状態では勝ち目は無い。
だが、楓の瞳は未だ正面の敵を見据えていた。
「いや───」
鞘を握っていた左手を懐に入れた。
「勝つのは私だッ!」
左手を取り出した。
その手には掌に収まるくらいの小型拳銃。
素早く照準を彼方に合わせると引き金を引いた。
───パァンッ!
乾いた銃声が轟き、彼方が膝から崩れ落ちた。
「すまぬ…」
横たわる彼方に一言だけ掛けると楓は振り返った。
視線の先で2つの影が舞い踊っていた。
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霞が軍刀を突き出す。疾風はそれを短刀でいなした。
霞はさらに軍刀を振るおうとする。
しかし、いなされた軍刀の刃を返して、疾風の足を狙おうとしたところで、霞は突然、後ろに跳んだ。
パンパンパンッ、と銃声が三発続けて鳴る。
「そんな撃ち方じゃ、私には当たらないわよ。ねえさん♪」
霞が楓に微笑み掛けた。
「くっ…これだから無粋な兵器は嫌いなのだ」
「楓、拳銃も持ってたのか?」
霞と距離をとり、楓の横に並んだ疾風が問い掛けた。
「ああ。万が一の護身用とハッタリに使えるかもしれぬと思い、これを持っておったのだが…」
手の中の拳銃に一瞥をくれると、それを手放した。