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doll
【同性愛♀ 官能小説】

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doll V-1

 静かな暗やみの中、鍵を開ける音が響く。その夜、智花は裕奈と一緒に部屋に戻った。長かった夜のデートの帰りだ。
「ただいま。って湊は寝ているのかな?」
 そう言いながら、裕奈は部屋の電気を手探りで点けた。
 部屋に入ると既に暗くなっていた。二人が外に出るときには明かりがついていたのだから、必然的に湊が消したのだろう。
「当たり前でしょ。今何時だと思っているのよ?」
 行為を終えるまでは裕奈が智花の言うことに耳を貸さなかったくせに、事が終わると裕奈は急に優しくなる。先程まで裸同然だった智花も今は裕奈のコートを着ていた。
 それでも夜風が肌に触れる感触は安心できるものでもなかった。誰かに見られていたのかも知れない。数時間前の行為を思い出し、智花は情欲に流された自分を呪った。

「智花。お風呂入るでしょ?あたしお湯出してくるから。」
 裕奈はそう言って浴室へと向かう。
「ありがとう。あたし着替え用意してくるね。」
 寒空の下を布一枚で歩いていた智花の身体は冷たかった。その上外にも関わらず戯れ事をしたというのだから、智花は早くシャワーを浴びたいと思っていた。

 智花はお湯の流れる音を聞いた。出たばかりで勢いも不安定なお湯が浴槽の床で跳ね返る音。それがかえって智花を安心させていた。

 着替えを探すために智花は寝室へと向かった。
 智花が寝室に入ると部屋には一番小さい電灯がついていた。部屋の中心に敷いてある布団から規則正しい息が聞こえる。湊が眠っている布団だ。
 湊は寝返りをうつ。その動作に智花は自分が起こしてしまったと思いどきっとした。寒い冬の外気に熱を奪われないように掛け布団にくるまって彼女は眠る。

 昼間は活発に動き回る湊も寝顔はとても愛らしかった。触れてみたい。そんな衝動に刈られる一方で、まるで盗み見ているような罪悪感もして智子は目をそらした。
 智花は自分の着替えを手早く取出すと、湊を起こさないようにそっと立ち去った。

 寝室の扉が閉まる音。それが智花が立ち去った後の静かな部屋の中で響く。
 湊は起きていた。寝室の戸が閉まり智花が部屋を出た事を確認すると彼女は目を開ける。
「馬鹿」
 彼女の小さな唇が紡ぎだしたその言葉はいったい誰に向けられたものなのだろうか。今は誰も分からぬまま、ただ夜が過ぎ去っていった。

doll V


 どんなに気にしていようとも時間はいつもとかわらず進んでいく。智花が起きる頃にはいつもと変わらず朝日がカーテンの隙間からさしていた。
「おはよう。裕奈。湊。」
 寝起きの悪い智花が寝室から出てくるのはきまって一番最後だった。
「おはよう。智花。」
 湊も早い方とはいえないが、智花みたいに寝坊しているわけでもない。すでに着替え終えて座って待っていた。
「ちょっと待っていてね。もうすぐでご飯できるから。」
 裕奈の元気な声が台所から聞こえてくる。そんな裕奈は間違いなく早起きする人で、今もこうして朝食作りに取り掛かっていた。
 裕奈は智花と同様に夜更かししていたはずなのにそんな様子をみじんも見せないのは彼女のずるいところだと智花は思った。

「いただきまーす。」
 人間一晩たてば恥ずかしい過去の記憶も薄められるもの。その事を普段どおり食卓に座る中で智花は実感していた。


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