doll V-4
湊と裕奈は大浴場に向かう廊下を並んであるいていた。湊は裕奈と二人になって話したいことがあった。
智花の事、裕奈の事、湊自身の事。今まで何も言わなかったのは自分の一言でみんなの関係が壊れるのが恐かったから。
高校を卒業して、今こうして会うことでどうしても伝えないといけないと湊は思う。
温泉に迎う途中で隣を歩いている裕奈の考えている事は大概分かる。気にするなと言われていても智花の事を考えているのだろう。
裕奈は優しい。せっかく智花が気をきかせて湊と裕奈の二人を送り出してくれたのだから湊と笑顔で話をしながら歩いてくれる。でも、彼女はどこかで智花の事を気に掛けている。それが分かってしまう湊はどこか淋しさを感じていた。
優しいから、優しすぎるから彼女はどこかで誰かを傷つけている。湊はその事を自分が教えなければならないと思った。
実際、大浴場に入ると貸し切り状態であった。お風呂はいくつもあり、一回で回りきるのは難しいように思えた。脱衣室で服を脱いでから二人はまず掛け湯を浴びる。
「裕奈って本当に綺麗な身体しているよね。」
温いお湯が冷えた身体の表面を抵抗なく流れる。湊は裕奈のお湯の流れを目で追いながら言った。
「何言ってるのよ。湊がそんな事言ったら皮肉にしか聞こえないよ。ほら。」
裕奈の魔の手が湊の胸に忍び寄る。
「ああっ!?ちょっといくら誰もいないからってこんなところで触る?ふつう。」
確かに湊は小さな体型の割に胸が豊かな女性らしさがあって普通だったら裕奈が言うように皮肉にしか聞こえないだろう。
「でも可愛かったよ。今の、湊の顔。」
何気ない裕奈の一言一言が湊を熱くさせる。湊の心の奥底を静かにくすぶる。
「馬鹿。そんな事言われたら、あたし」
裕奈はそんな湊からみても本当に綺麗な身体をしていた。
「どうなっちゃうのかな?」
湊をからかうことに味をしめた裕奈は子悪魔のような表情で尋ねる。
「もう、何でもないわよ」
笑ってごまかしているが湊は裕奈に見とれていた。
「嘘つき。なんでもない人は、こんな声なんて出さないよね?」
裕奈の指先が湊のやわらかな肌の上で滑る。さっきまでとは違う明らかな愛撫。湊のすべてを知り尽くした裕奈の指は湊の感じやすいところばかり狙ってくる。
「馬鹿っ。裕奈、止めなさい。あたし、もう感じちゃって限界だから。ふぁあ」
湊の声に色味が帯びてくる。艶めかしくて甘美な響き。うるさいほど、胸の動悸が警告する。止めてほしいなんて嘘。本当は裕奈にもっと触れられていたい。理性なんて裕奈に触れられた瞬間になくしていた。
「湊。可愛い顔してる。やっと素直になったんだ。それであたしに何をして欲しいのかな?」
裕奈の顔を近くに感じる。その小さくきれいな唇に触れてみたい。
「キスをしたいの」
裕奈は湊の耳元でいいよとささやく。彼女は眼前で湊の唇を奪っていた。互いの感触を唇と言うただ一点で感じる。
湊にとって一点だけでよかった。裕奈と繋がっている。その証明はこの脆い口付けで十分だった。
身体を引き寄せる。その時裕奈との距離は零になる。胸の音は相変わらずうるさい。違う、自分だけじゃなくてそれはもう一人の鼓動。
湊の緩い唇を裕奈の舌がこじ開けるのは難しいことなんてなかった。裕奈の舌、それだけで意志をもつように湊の口内を犯していく。
息をすることを忘れてしまったように、身体は口付けをすることを求め続ける。
「んっ。んあっ。ちゅっ。ぷはっ。」
息をすることを思い出したとき肺が燃えるように熱くなる。
「はあ、はあ、はあ。キスってさ、こんなに気持ちいいものなんだね。」
「うん。」
床のうえにへばってただ酸素を求め続ける二人の姿はよほどおもしろかったに違いないだろう。