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doll
【同性愛♀ 官能小説】

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doll V-3

 一方、二人のやり取りを見ていた湊は一人つぶやくように口を開く。
「鈍感なのはどっちのほうよ。」
 そう言葉を向けられたのは智花でもあり裕奈でもある。昨日のデートについていかなかったのは裕奈の気持ちを知っていたから。
 湊がそれ以上見たくなかったから。自分で思い知ったのだ。思った以上の脆い自分に。だから傷つかないうちに距離をおいてしまえばいいと思っていた。
 湊はやってくる裕奈の顔を見る。世の中で言う美人というのは彼女が尺度となっているのではないかと湊は思った。
 そんな思いを胸の中にしまい込み、やってくる裕奈に向けて言う。
「じゃあ行きますか。」
 湊は仮面を被る事が得意だ。

 荷物を積み込み、湊によって車が発進する。後部座席では智花が念仏を唱えていたが、湊はまったく気にしそうになかった。
「ちょっと、智花。ジェットコースターに乗るわけじゃないんだし、もう少し普通にしたら?」
「冗談じゃない。湊の車なんてジェットコースターのほうがまだましよ。」
 そんな智花の様子を見て、裕奈はしょうがないなんて言いながら、そっと手を重ねていた。その手の先から伝わるわずかなぬくもりに智花は落ち着きを取り戻す。

 その後の車内に絶叫がこだましたのは言うまでもない。
 智花が車からおりた時彼女の視界は揺れていた。足もおぼつかなく頭がぼうっとしていた。車で酔ったのだ。
 ただ智花は車で酔いやすい体質ではない。それどころか人生初めて酔った気がしていた。
「今、こうして無事に着く事ができて本当によかったわ。」
 湊の運転は途中まではよかった。市街地を抜けるまでは身構えるのが馬鹿みたいに平和だった。
 だが山間部に入ると車は揺れた。それは例えでなく本当に揺れたのだ。カーブが多いところに関わらず無駄にアクセルと急ブレーキを使ったせいだった。
「ごめん。さすがにやりすぎたって反省してる。」
 智花の様子を見て湊は反省した様子を見せる。一方裕奈は平気な顔をしていた。そんな彼女をみて智花は言う。
「裕奈って本当にずるいよね。どうしてこういう時に限ってぐっすり眠れるのよ。」
 着いたとたんに起きたらしく、彼女はねむたい眼を擦りながら歩いていた。


 彼女達が着いた先は古くからの温泉旅館街である。その中でも比較的新しい旅館に宿泊することになっていた。
「智花?智花?」
 旅館に落ち着いてからしばらくして裕奈は智花の身体を揺す。
「うん。ごめん。まだ駄目みたい」
 顔色の優れなかった智花はしばらく寝ていると言っていたがなかなか回復しそうになかった。
「智花がそんな調子ならとりあえず温泉は先のばしね」
 裕奈はそう言って腰を下ろした。やはり智花の体調が気になって温泉どころではなかっただろう。寝ている智花の額を優しく撫でていた。
 智花は幾分楽になったのか笑顔を見せて二人に言った。
「いいよ。二人で入ってきたら?どうせ寝る前にもう一回入るでしょ。その時にはあたしも大丈夫だと思うしね」

 裕奈はそんなことできないみたいな表情を浮かべる。一方の湊がそれならお言葉に甘えてと言うので、結局二人で先に入ることにした。智花はもう一眠りすると言って横になった。

 湊は自分の旅行カバンからバスタオルとその他もろもろの物を取り出す。旅の必需品温泉セットというやつだ。子供時代ならタオルだけで済んだものなのに面倒臭くなったものだと湊は思う。
「でも珍しいよね、湊がそんな事言うなんて。」
 裕奈も旅行カバンから湊と同じように温泉セットを取出し両手で抱える。
「そう?あたしは結構図々しいよ。だから、今だけ裕奈はあたしが独り占めしちゃうね。」
 湊はそう言うと、横になっている智花を見る。
「じゃあ悪いけれど、あたしたち先に入っちゃうね」
 湊がそう言って部屋を出た時には、智花の寝息が返事をしていた。そんな様子を湊は裕奈と顔をあわせて苦笑する。


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