光の風 〈影人篇〉-1
「以上で本会議を終了する。」
カルサの声が広々とした会議室に響いた。総勢20名はいたのだろう、終了の合図を聞くとぞろぞろと人の流れが扉に向かった。
カルサの傍らには貴未がいた。
「陛下、少しよろしいでしょうか?」
シワを深めた老大臣がカルサのもとに近付き少し頭を下げながら申し出た。カルサは大臣の言葉に頷き、貴未に言葉を向ける。
「先に戻ってろ。」
「分かった。」
貴未は老大臣に頭を下げ人の流れにのって会議室を後にした。残ったのはカルサと老大臣の二人だけだった。
老大臣はカルサが幼いときから見守り手助けしてきた、ある種親代わりな存在だった。長く一緒にいる分、理解もするし反発もする。納得するまではお互いの意見は譲らない。そういう関係でもあった。
「で、なんだ?」
周りに人の気配がしなくなったのを確かめてからカルサは話を切り出す。老大臣に近くに座るように促し彼を座らせた。
「陛下が戻られてから…どれほど経ちましたかな。」
老大臣の言葉にカルサは動きを止めた。手元にあった視線を老大臣に向けた。
「やはり気付いていたのか。」
返事の代わりに軽く頭を下げた。付き合いが長い分カルサの雷神としての仕事にも理解がある。ある程度のことは把握していた。
「前々回、前回と聖班長。今回は貴未特別調査員、いつまでも人の皮を被せるのはサルス様がかわいそうに思えて仕方有りません。」
「そこまで知っていたか。」
老大臣の言葉にカルサは切なそうに微笑んだ。椅子をひいてゆっくり立ち上がり、窓辺に向かった。
今日は天気がいい。
「だが、それはできない。じきにオレはこの国を留守にする。代わりがいなければ国が混乱する。」
「しかし…それではサルス様があまりにも。」
「そうだな。」
複雑な表情は肩越しに少ししか見えなかった。老大臣には分かっていた。
「オレを死んだことにすれば良かったのに。あいつは馬鹿だ。」
自分の葬儀をやってしまった事でサルスは自分の存在を消してしまった。影でしか生きられない人生を自分で選んでしまったのだ。その事をカルサは悔やんでいた、しかし。
「それは陛下が仕向けたことでは?」
低く突き刺さるように響く老大臣の声。カルサの笑みは自然と消えた。