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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈影人篇〉-9

「何で謝んねや?」

サルスは苦々しい表情を浮かべるだけだった。当然の質問をしている聖はいつもと変わらない。もちろんレプリカも心中穏やかではなかった。

「自分、いつまでそのままでおるつもりや?大臣らは気ぃついとんで?」

「ああ…分かっている。」

「ほな、なんでや?」

聖の隙のない質問にサルスは寂しげに微笑み、まだ仕事があるからと告げた。その表情になんとも言えず、そうか、とだけ頷きサルスの肩を叩いて聖は部屋から出ていった。

部屋には微妙な空気が流れている。何か話した方がいいのか、話すにしても何を言えばいいのかレプリカには分からなかった。

「レプリカ、もう下がっていい。」

思わぬ言葉にレプリカは戸惑いを隠せなかった。しかしサルスはいつものように穏やかな微笑み見せている。

「大方カルサがオレの所に行くように言ったんだろ。オレは大丈夫だから仕事に戻ってくれ。」

何か伝えたくて体が反射的に動いた。しかし瞬間的に本能がそれを制止した。伝えたくても言葉にならない、伝えていいのかも分からない。レプリカを惑わすほど、いつも通りにサルスは笑っていたのだ。

レプリカはスカートの裾をあげてお辞儀をし、ゆっくりと部屋から出ていった。

一人残った部屋でサルスは静かにソファに腰掛ける。遠い目をして何かを深く考え込んでいるようだった。やるせない思いが体中を駆け巡る。

「オレが選んだ道だ…。」

そう呟いてみた。握り締めた拳が震えている、それは彼の中での戦いを表わしていた。

決して表にしてはいけない胸の内の叫びは堪えきれずに拳に表れる。本当は叫んでしまえば楽なのに許されない事だったから。

苦悩の姿を見せていたサルスは手の震えを止めた。どことなく違う雰囲気を一瞬にしてまとい、うつむいていた顔を少しあげて握り締められた拳を見つめた。いつにない無表情は誰にも見せたことのないもの。馬鹿にするような目で吐き捨てるように笑った。

その瞬間。

我に返ったようにいつもの雰囲気を持ったサルスに戻った。今何があったのか、次第に息は荒くなり手で口を覆う。目はどこを見ているのか定まらずにきょろきょろしている、彼は動揺していた。

 目にはかすかに涙が浮かんでいるようにも見える。勢い良く立ち上がり自分を鏡に映した。そこに映っているのは間違いなく自分、顔面蒼白の取り乱した自分だった。

一瞬安心したのも束の間、すぐに表情がこわばった。鏡の向こうの自分と共にゆっくりと崩れ落ちていく。地面に座り込み、鏡に両手をついたまま呟いた。

「大丈夫だ。大丈夫だ。…オレはっ。」

俯いたまま顔は上げない、上げれなかった。何度も何度も繰り返し呟き、呪文のように自身を諭す。切ない声はしばらくの間、部屋中に響いていた。


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