光の風 〈影人篇〉-5
《主人の両親は…人か?》
「いや…分からない…。」
リュナと出会った時、彼女は風占い師である風蝶の婆と暮らしていた。彼女と血縁関係があるのかも分からないし、両親の行方ももちろん知らなかった。
思えばカルサはリュナが前にいた国のことをよく知らなかった。王室として訪れた事はあったとしても、どんな風に暮らしていたのか、風神として生きていたのかも聞いたことがない。
あるのは小さい頃、あの国に訪れたときに出会い遊んだ記憶だけだった。
「オレは…何も知らないのか…。」
自分のしてきた事に呆然とした。確かに忙しかった。国務もあれば幾度となくくる太古の因縁がらみの侵入者、自身の戦い、しかし言い訳はどこまでいっても言い訳のまま。
カルサが彼女の事を深く知ろうとしなかったのは事実だった。聞いて彼女が話さなかったわけではない、聞かなかったのはカルサだった。
《まぁ…どちらにせよ、主人は衰弱している。光の力を持つ者よ、力を貸してほしい。》
「力?」
《雷神…光の精霊を連れてはいないのか?》
社の言葉にカルサは黙ってしまった。ため息を吐いた後静かに微笑む、いつものように切ない表情。
「オレにその資格はないからな。でも地神と水神は精霊を体に取り込み一体化しているようだ。」
《火の力を持つ者もまだ未熟だが、いずれそうなるだろう。主人に回復魔法を通じて元素の力を注いでほしい。》
聞き慣れた言葉に苦笑いするしかなかった。それくらいならいつでもできる。社は精霊の有無は関係ないだろうと続けた。
「精霊の事は手を打ってある。一体化するしないにしろ、力が欲しいのは事実だからな。」
カルサは回復魔法をリュナにかけ続ける。切実な気持ちと複雑な想いが交差していた。
「そう、貴方はそういう役割を持っているのね。」
日の光が差し込む部屋の中に作られた空間に彼女はいた。どこが上か下かも分からない空間の中、ナルとラファルは向き合っていた。
ラファルの体を撫でながらやさしく微笑む彼女は嬉しそうだった。
そんな彼女をラファルは真っすぐ見ている。穏やかで優しい目、全て分かっている風だった。ナルは手を下げて真正面にラファルを見つめた。
「あの子のこと、頼みました。」
深々と頭を下げて気持ちを伝える。誠意ある態度で示したかった。
ラファルは頭を下げてそれに答えた。やがて空間は歪み、元の彼女の部屋に戻ってきた。