五月、雨、君と夜と-4
◆
河川敷は当たり前に濡れていて、座る場所なんかなかった。
だから君は用件を済まそうと急いだんだろ。
「あのね?…私、私ね…引っ越すんだ。」
見るからにうつ向く君は、なにか少し神々しく思えた。
僕は訳を尋ねてみた。
「病気がね…治るらしいんだ、そこに行けば。 だから…ね。」
君の眼には涙があって、その涙が頬を伝う。
「だからね、私、行こうと思うの。」
それだけ、と小さく言って君はうずくまった。
胸の何処かが醜くきしんだ。
夢の少女が泣いてる様な気がした。
僕は君の頭をできるだけ優しく撫でた。 慰める様に、慈しむ様に。
「ありがと。 あと…ごめん」
何故か、謝る君。
たぶんそれには、意味なんてないのだろうけど。
それでも僕は少しだけ、泣いたんだ。
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銀河の夜。
二人はただ慰め合う。
雨の後。
二人はただ確かめ合う。
これからの相手を考えて。
これからの暮らしを考えて。
たぶんきっと始めから、そんな雨は降っていたんだ。
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その夜、僕はまた、夢を見た。
昼間の少女と父親が現れて、楽しそうに話していた。 その手には季節外れの暖かいコーヒーがあって、それは何故か無糖みたいだった。
コーヒーから立つ湯気がほんのり君を、救ってる様に見えた。
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月曜日の朝。
今日から通学路に、君はいない。
僕は一人で自転車通学をする事にしたんだ。 通学中に誰かに邪魔をされたくないから。
朝のニオイが口に残っている。
空は今日も青かった。
校門では教員達が挨拶していた。 僕もそれに挨拶をした。
ただ、きっと、意味なんてないのだけれど。
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帰り道のついでに、いつも河川敷によってみた。
カラカラに乾いた地面は水分を欲しがり、カエルの合唱は聴こえなかった。
僕はそこを後にした。
手には缶コーヒーを一つ持って。
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銀河の夜。
君は隣にもういない。
ただ少しだけ、前とは違う自分が誇らしかった。
空は、星は、雲達は、そんな僕を見て少し笑った。
ありがとうの言葉が自然と溢れた。
そんな言葉も、銀河の夜に消えていった。