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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第12話---1

 何故すぐに気付けなかったのだろう。自分たちが目を覚ました時、すでに彼女はこの教室にいなかった。そんなことに――どうしてずぐ気付けなかったのだろう――。





オリジナル・バトル・ロワイアル

堕天使と殺人鬼 --第12話--
〜悪夢の始まり篇〜





 保志優美(女子十五番)は、割と個性的な面々が集結している三年A組の生徒の中では、極めて強調された特徴があるわけではなく、どちらかと言えばあまり目立たない生徒であった。
 その証拠に大半のクラスメイトが持つ彼女の印象は、女子中間派に所属していることくらいであり、自分は幼馴染みの林道美月(女子十九番)の情報から得た割と面倒見が良いと言う彼女の一面は知っていたが、むしろそれは彼女が発する雰囲気からはおおよそ連想できず、言葉は悪いが、他人からの情報で初めて見えて来る人物――それが、保志優美であった。
 ただ――水樹晴弥(男子十七番)は想いを巡らせる――確かに優美は目立った存在ではなく、草野香澄(女子四番)や金沢麻也(女子三番)と言った面々のように他人に積極的に接するようなタイプでもなかったし、実際晴弥も彼女との関わりは指で数える程度しか思い出せないが――ただ、今になって思えばだが、優美の内面からはいつだって慈悲に満ちた輝きが彷彿としていたような気がする。今更それに気付いたところで、遅いかも知れないが――。
 例えば休み時間、気の弱い瀬峰久美子(女子七番)が他のグループの生徒から軽い悪口を言われていた時――晴弥が気が付くと決まって優美と久美子の姿が見えなかったのは、久美子の繊細な心を配慮した優美がわざわざ連れ出していたからではなかったか?
 それから優美との直接的な出来事を挙げると――あれは二年生の頃の体育の授業だったか、それとも昼休みだったか――とにかく確か、晴弥がクラスメイトと共にサッカーをしていた時だ。
 A組の男子代表お調子者で、サッカー部の柴木一平(男子六番)が得意だと自称するリフティングを皆の前で披露していた。それはサッカーの経験があまりない晴弥には(個人的にはサッカーよりも野球の方が好きだった。野球の中継が放送されているとついつい見入ってしまうほどだ)、実に見事な出来栄えであったのだが、周りに乗せられた晴弥が出来るはずがないと思いながらも挑戦してみると、どう言う訳か意外と出来てしまった。
 勿論それは、今思うと本当にまぐれでしかなく、宙から落ちて来るボールを辛うじて受け止め追い掛けると言う、リフティングなどと呼べるほどの代物ではなかったが、その時晴弥が調子の乗ってしまったのも一平が些か不機嫌そうになったのも、ある意味必然であった。
 そんな訳で調子に乗った晴弥を一平が、ちょっとボールを奪い取ろうと足を踏み出した瞬間――その時晴弥はボールを追い掛けようとしていたのだが、不意が生じて偶然にも正面衝突してしまった。
 とにかくまあ、そんな訳で晴弥が状況を把握した時には周囲には爆笑する仲間たちがいて、自分の膝は砂に紛れて赤黒い液体が点々としていたのだが――教室に戻った時、すっかり笑い者となった晴弥を咎める林道美月とたまたま一緒にいた優美が、ブレザーのポケットから絆創膏を取り出し――「良かったら、使って。」――と、微笑みながら晴弥に手渡した。
 朧げな記憶ではあるが、それは確かな出来事だ。その時から優美は、トレードマークとも言えるポニーテールをしていた。

 しかし今、そのトレードマークだったポニーテールはぼさぼさに解け、ぽっかりと穴の開いた頭部から流れ出した血液が付着し、所々赤黒く固まっている。大きく欠けた穴からは、無残にも荒らされた脳みそが今にもはみ出してしまいそうだ。
 一緒たりとも動かない瞼。そこから覗く、色を完全に失った瞳。だらし無く開きっ放しになっている唇。そのそれぞれのパーツに付着した茶色い血痕が、脳裏に焼き付いて離れなかった。


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