堕天使と殺人鬼--第12話---5
「な、何すんのよ! 離してよ、晴弥!」
状況を理解した美月が抵抗を始め晴弥を振り払おうと手足を激しく揺らすが、晴弥は腕に込めた力を決して緩めなかった。
「お願い離して! 麻也が――麻也が――!」
「嫌だ! お前まで死んだらどうすんだよ!」
晴弥が必死で首を振って訴えても、美月は抵抗をやめない。いつの間にか、アキラが美月の目の前にやって来ていた。それで美月の肩を揺すった。
「林道――ゴメン、ゴメンな……分かってくれ……」
涙声でそう訴えるアキラの身体は、小刻みに震えている。アキラはそれなりに頭が良く、理解をするのも早かった。だから――麻也を助ける方法がないことも、誰より早く気付いてしまったに違いない。人一倍正義感の強い彼には、最も辛い現実だった。
ピ、ピ、ピ、ピ――麻也の首輪から流れる電子音が、明らかにその速度を速めていた。
先程のまま茫然と宙を見上げていた麻也が、突然がっくりと首を落とした。
「いや、いや、いやっ――嫌だよ、麻也ーっ」
もう美月の声には、力が篭っていなかった。身動きが取れない状況のまま、美月が片手を麻也に延ばす。大粒の涙をとめどなく流しながら、何度も何度も、首を左右に揺らした。
ピピピピピピピピ――突然、何を思い立ったのか麻也は立ち上がると、同じように大粒の涙を流しながら美月を見返した。二人の瞳が交差し、美月が一瞬、身体の動きをぴたりと止める。
「みっちゃん、ゴメンね……。」
そう一度呟いて麻也は、少し探るように周りを見渡した後――顔付きを変えた。殺気に染まる瞳で睨み付けながらふらりと立ち上がり、一目散に駆け出した。
「うわああああっ!」
声を上げながら麻也が向かう先には――三木原がいる。いつの間にか彼は、拳銃を構えていた。
三木原までの距離、僅か数メートルと迫ったその時――鼓動のように鳴っていた首輪のその電子音が、一定に染まった。
ピ――――――。
耳を塞ぐ暇もなかった。空気を割るような破壊音が、耳の粘膜を突き破ったような感覚が襲い掛かる。それどころか直接的に、脳を走り回った。
火花が舞い散っている。衝撃でのけ反った麻也の――契れた首の中からそれと共に噴き出した赤い液体が、シャワーのように降り注ぎ、辺りをばら色に染め上げた後、ついに倒れた。
がっくりと首が傾き――いや、ひびが入った骨で辛うじて繋ぎ止めているだけのそれは、首ではなく頭と言った方が良いのかも知れない――とにかく、傾いたそれが調度生徒たちの方を向いた。
自らの血液で真っ赤になった女の子らしい丸顔。衝撃で割れたのだろうか、日頃から彼女が付けていた眼鏡のレンズは、何処かへ飛ばされてしまったようだ。唯一残っていた黒いフレームも、ひびが入り、折り曲げたようにおかしな形になっている。
それから覗く見開かれた瞳。
彼女の瞳は、最期まで怒りと悲しみを訴えかけていた。
【-- 死亡者一覧 --】
・金沢麻也(女子三番)
〔合計:一名〕
【残り:三十六名】