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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第12話---3

「あたしは……あたしは悔しいもん! 許せないもん! あたしは絶対あなた達を許さないもん!」
 力強い足取りで、麻也が更に踏み出す。その方向には、無表情の三木原とマシンガンを構えた三人の兵士たちが待ち構えている。
「――麻也!」途端、林道美月が飛び出した。自分と同じくらい細い麻也の肩を力強く抱き締めながら、美月は麻也を必死で引き止めようとした。
「麻也、やめて! お願いだから、もうやめよう!」
「やめる必要なんてない! 絶対許さない……許さないんだから! 優美を返してよ! 優美に謝ってよー!」
 大きく肩を揺らして、麻也は美月を振り解いた。転倒する美月を見て、晴弥ははっとした。
 麻也が小柄な身体を動かして三木原に突進して行く。しかし――向かう先で彼女に襲い掛かったのは、呆気ない結末だった。
 三人の内、二人の兵士――加藤俊一郎と竹村葉太が三木原の前方まで移動して、女の子であるにも拘わらず容赦なく麻也の腹部を蹴り付けた。転倒しそうになる麻也を支え上げて、今度は鳩尾に殴り掛かる。そう言うのが、何度か行われた。暫くして、麻也は誰もいない教室の端の方向へ、投げ飛ばされた。
 悲鳴が上がり続けていたが、それで止んだ。
「うう……」
「麻也!――麻也っ!」
 呻き声を上げて立ち上がろうとする麻也に急いで駆け寄ろうとした美月だったが、それはもう一人の兵士――中原茂の手元から栄えるマシンガンを向けられ、足を止める。他の二人の兵士も、続いて銃口を全生徒に向ける。勝手に動くなと言う、命令だった。
 三木原が手を上げ、下げると三人の兵士はマシンガンを降ろし元の配置へ並び直したが、美月も、他の生徒も、押し黙って動かなかった。動けなかった。
 緊迫した雰囲気の中、そっと三木原が足を踏み出す。向かう先は勿論、麻也だった。
 激しく咳き込んで呼吸を荒げる麻也が焦点の定まらない瞳で、天井を見上げる。黒ぶちの眼鏡のフレームが蛍光灯に反射して白く輝いた。その下の虚ろな瞳から流れ落ちる涙は、殴られた時に出来た痛々しい傷口に吸い込まれ、すぐに赤い液体となって再び床に落ちた。
 ふと、フレームの白い輝きに影が指した。見上げる麻也の視界へ、調度見下ろす形で入り込んだ三木原が原因であった。
「……君の考え方は、よーく分かったよ。」
 心底呆れたと言うような口調で言いながら煙草に火を付けると、スーツの内ポケットから何か――小さなプラスチックで出来たリモコン――のような物を取り出し、懸命に彼を睨め付けている麻也に向ける。
 僅かに、三木原の右手の親指が、力を込めた。それを理解するよりも先に晴弥の耳に、いや、教室にいる全員の耳に電子的な機械の音が届いた。
 ピ――ピ――ピ――教室が次第にざわめいた。
「え、何この音……?」――「どっから聞こえてんだ?」――「え、なに、なに?」
 突然のことに不気味がる生徒たちは最もであり、晴弥もその中の一人であった。ただ、どこから発せられる音なのか分からない他のクラスメイトたちとは違い、晴弥は発信元にごく自然と気付いていた。何故なら――晴弥がずっと追っていた視線の先で見付けたそれが赤く点滅するのと、電子音が鳴り響いたのがほぼ、同時であったからだった。
「え?――え?」
 困惑の表情を浮かべ、麻也が確認するように視線を落とす。すぐに細い首を囲んでいる銀色の首輪に、指を絡めた。
「なに? なに、なんで急に鳴り出したの?」
 上擦った声を上げながら、ガチガチと音を立てて麻也が首輪を引っ張る。それで晴弥だけでなく、全てのクラスメイトがこの音が麻也の首輪から発せられていることに気が付いた。
「……巻き込まれたくなかったら、離れた方がいいと思うよ。」
 踵を返した三木原が不適に笑いながらぼそりと呟いたのを、聞き逃した者は恐らく一人もいなかった。
 麻也が次第に激しく首輪を弄りながら立ち上がったのを見て、何人かが「わっ」と叫んで後退りする。その様子を見た麻也が、驚いたように目を見開いて覚束ない足取りで一歩前へ進んだ。


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