ICHIZU…A-1
ー昼休みー
「ゴハン大盛りね!」
給食の配膳係の前にトレーを持って立つ佳代の顔はほころんでいる。彼女の学校生活の中で、野球に次いで好きな時間だ。
エプロンにマスクをした配膳係は、“ハイハイ”といつもの事と言わんばかりに食器から高く盛り上げたゴハンを佳代のトレーに乗せた。
“ありがとう”と言って佳代は自分の席に戻る。
皆に給食がいき渡ったかを確認して配膳係の“いただきます“という声を合図に昼食が始まった。
佳代の前席、尚美は机を佳代の方へ向ける。
「さっ、食べよ!さっきの話、聞いてあげる」
「話って?」
佳代はゴハンを口に運びながら、尚美の言葉に耳を傾ける。尚美は少し驚いた様子で、再び佳代に訊いた。
「アンタが朝言ったじゃない!グチ聞いてくれって」
「ああ…アレね。なんだかどうでも良くなった…」
「アンタねぇ…怒るよホントに!」
尚美は呆れたように語気を荒らげる。それを見た佳代は右手を尚美に向けて彼女を制すると、
「まって、まって!話すけど、まず食べさせて!お腹ペコペコなんだから…」
佳代はそう言うと、オカズの煮込みハンバーグを一口食べるとゴハンを食べ出した。それを眺める尚美は苦笑いを浮かべながら、
「佳代、ホント嬉しそうに食べるよね。でも、そんなに食べてよく肥んないね」
確かに女子で“ゴハン大盛り”を頼んでいるのは佳代だけだ。尚美も含めて中学生ともなれば、“視線”を気にしだす年頃だ。男子や同性からの。
少しでも良く見られたいと容姿に気をくばりだし、食事の量もおのずと減らしがちになる。
げんに尚美もガッチリとした体型のためか、ゴハンは少な目だ。
しかし、佳代は違った。身長は160センチと平均より大きいくらいだが、その対躯は華奢で線が細かった。
尚美の問いかけに佳代は、
「今、食べとかないと、部活でもたないもの。コーチに言われたんだ。疲れた時こそ、たくさん食べろって」
「コーチって…ウチの学校の?」
「ちがう、ちがう。ジュニア時代のコーチ。すっごい良いコーチだった…」
尚美は“ふーん”と分かったような分からないような相づちを打つと、佳代と同じようにハンバーグを口にした。