飃の啼く…第2章-4
次の瞬間、もう視力を取り戻したそいつは――飃に襲いかかっ――
飃!? ど う し て 盾 を 持 って い な い の !?
盾は、飃の手を離れて、地面に転がっていた。幾本もの蛇が、飃の身体に巻きつき、締め付ける。
「ひゃははハ、莫迦な犬め!ついに観念――」
きっと、その化け物は困惑しただろう。自分の咽喉を、煌く白刃が貫いているのを見て。
「“せんせい”……私の夫を、犬呼ばわりするのは、やめてくださいますか……」
「おぉ・・・お・・・八条・・・・・」
「……」
薙刀を横に払った。化け物の首が、地面に到達する前に、そいつは粉塵となって消えうせた。視界の奥で、飃がくずおれる。
「飃っ!」
「すこし、かすり傷を負っただけだ。」
そうは言ったものの、飃の身体には力が入らないようだった。私は彼を助け起こして、腕に抱えた。
「あの女(ひと)は・・・?」
「人間に身をやつして生きようとした妖怪だ。まっさきにやつに目をつけられて、危うく死ぬところだった。」その女性は、気を失って眠っていたけれど、どこも怪我はないようだった。
「だから、図書室に忍び込んでいたの…?」
「ああ、あの辺りから、『善くない』匂いがしたからな。そしたらあの男に行き着いたわけだ。」
「そうだったんだ……」私まで、身体から力が抜けてきた。
「これで懲りたか?ん?」
「…何によ。」
「夫以外の男に熱を上げると、どうなるか。」
飃は意地悪そうに笑った。
「…っ!あんた、知って…!」
「己は耳がいい。それに、鼻もいい。加えて、俺は毎日学校でお前とあの男の様子を見ていたのだからな。うなり声を上げないようにするのに苦労した。」
「…もう……。」
喜んだらいいのか、怒ったらいいのか、わかんないわよ。
司書を図書室の仮眠室に寝かせて―本当にきれいな人だ―から、いったん教室に戻って、薙刀を調べた。すると、あんなに美しかった刃が微かに刃こぼれしていた。
「お前の腕がまだ未熟な証拠だ。上達すれば、何を切っても刃こぼれしないほどの硬度になる。」
私はちらりと時計を見た。もうとっくに10時を過ぎ、外は真っ暗になってしまっている。
「でも、この傷はどうすればいいの?もう治らないの?」
「…この神器の修理法はひとつだ。」
飃の目が光った。
「…えーと…じゃあ、家に帰ってから…」顔が上気するのが自分でもわかる。どうしてそんな眼で見るのよ……。
「帰る途中で襲われたらどうするつもりだ…?」飃が立ち上がる。