夏の日-4
「見たい？」
「だから、言ったろ。女の子がそんなことを」
「じゃあ見て」
僕の言葉を遮り、ららはシャツのボタンを外した。
そこには下着に覆われた胸と、たくさんの痣があった。
僕は、何も言わなかった。「お父さん」
ぽつりと、ららが呟いた。僕は黙ったままだった。
代わりに、シャツのボタンを閉めてあげた。
その間、ららはずっと海だけを見ていた。瞳に映った海に、太陽が沈んでいく。潮風に、ららの茶色い髪が揺れた。
「…涼しいね」
「うん」と僕は答えた。
波が僕らの足まで届いた。「帰ろうか」
「うん」とららは答えた。僕は立ち上がり、ズボンについた砂を払った。
来た時についた足跡の上を器用に歩いて戻り、倒れていた自転車を起こす。
振り向くと、ららはまだ座って海を眺めたままだった。
「らら」
ぼそり、と。
聞こえるはずのない僕の呟き。
けれど、ららはゆっくりと立ち上がり。
こちらに振り向き、そして。
「恋は―――…あったよ！私は見つけた！どんな形してどんな色かはわからないけど、ちゃんと見つけた！」
オレンジ色の世界の中で、ららは叫んでいた。
なんだか僕には、その世界にららがひとりぼっちでいるように見えて。
―――だから僕は、その世界に―――
「らら」
もう一度、その名を呼んだ。
さっきよりも大きな声で。しっかりと、届くように。僕は自転車から手を離し、砂浜を駆けた。