レン-31
『ライファー、どうやらフールはレイラを引き抜こうとしているらしい。』
俺はムィとの電話を切ると、当日の綿密な攻撃目標を定めているライファーの元へと足を運んだ。
「フールが組織しようとしている新たな流通組織の事か?」
ライファーは今まで見ていた書類を机の端にやると、俺の言葉を直ぐに理解して応えた。『そうさ。彼女は大分二人に気に入られてしまったらしい。』
「二人?」
『あぁ、フールとアゲハ二人に。恐らくフールの構想では新しい流通組織の中にはレイラと共にアゲハがいる。』
ダークネスの製造者達と繋がりを持ち始めたフールは、今の組織の崩壊と同時に新たな流通組織を作る構想を組み始めたはずだ。
だがそれはこう考える事は出来ないだろうか?元々製造者達とフールを繋げたのはアゲハであったと…。
その可能性は高い。
ダークネスの密造地という組織の最大の秘密であり要を手に入れたアゲハ。表向きはその秘密を守る代わりに日本国内のダークネスを独占するという条件を出したが、本当の目的はまた別にあったのだ。
恐らくアゲハはこれまで直接的な繋がりを持つ事の出来なかった製造者達とフールを繋げ、フールと共に総てのダークネスを手中に納めようとしている。
俺は始め、フールはアゲハが組織に消されない為の保険程度にしか考えていなかった。だがそれは違い、二人は共犯だったのだ。
フールはアゲハという製造者達との繋がりを手に入れ、製造者達とアゲハからの打診を受けて新たな流通組織の構成を始めた。そしてそこにレイラを引き入れようとしている。
そう考えれば、組織にとって邪魔でしかないアゲハを消さない理由までもが繋がる。
俺は頭の中で繋がった一つの線の中身をライファーに告げた。
「…仮定でしかない話だが、そう考えるのが一番自然だな。」
ライファーは少しの沈黙の後そう言った。
「フール達はいつ動くと思う?奴にとって、お前を含む現在の流通組織の幹部達は邪魔でしかないだろう?末端の運び屋など、これまで指示を与えていた幹部達が消えてしまえば直ぐに散々になるだろうが、幹部をそのまま生かしておくとは考えにくい。」
『邪魔な者を処分するのには絶好の機会があるじゃないか。』
「なるほど、それが重役会か。」
全ては重役会で動く、俺にはそんな確信があった。
『どうやら重役会は俺達とフール達との奪い合いになりそうだ。社長を含めた幹部達を全て消してしまいたいフール達、情報の為に幹部達を殺されては困る俺達。』
「そして捕まりたくはないフールとアゲハ、だが何としても二人の身柄が欲しい俺達。」そして忘れてはいけない存在がまた一つ。
『純粋な意味で奪い合いになるのはレイラかも知れないな。』
「彼女はもともと此方側の人間と言っても構わないだろう?」
確かにそうだろう。だが俺には言い様の無い不安があった。
『彼女は最期の時まで俺を信じていてくれるだろうか?』
そう、不安の種は俺が彼女に本当の姿をさらしていないという事にあった。
「ならさっさと自分はINCだと告げるんだな。」
ライファーは軽い調子で言った。だがそれは出来ない。
『前にも言った通り、重役会の直前までそれは伝えない。』
そんな俺の言葉に対しライファーは、わからないといった表情を見せた。
…この時俺は君を試していたのかも知れないな。
犯罪に身を染める俺と、司法機関に身を置く君の運命が別れるその瞬間まで、君が俺を愛し続けてくれるかどうか。
互いに嘘を付き、互いを騙し合った俺達。
俺がつまらない意地さえ張らなきゃ、君を傷付ける事なんてなかったのにな…。
…本当にごめんな?