レン-18
「いい趣味してるよ!もっともそのスタイルなら、何着ても似合うだろうけど。」
俺は田端から一番離れた席に座り、彼女の行動を待った。まったく、ヘドがでそうだ。
彼女は耳障りな田端の言葉に軽く相槌を打ちながら、バッグから煙草をとりだした。すると田端がさっと純金のライターを差し出す。「ありがとう。」
そう言って田端の手に自分の手を添え、彼女は煙草に火を移した。彼女の手が触れた事で田端の目尻は垂れ下がっている。
「常務さん、お洒落なのね。」
「嬉しいねぇ。わかってくれるんだ!」
田端はお世辞をそうとは気付かない。
彼女と違い、田端の纏うブランド物は本当に趣味が悪い。
「それで常務、私を常務の会社の社員にしてくださるってお話、考えて頂けたかしら?」
「もっちろん!ただ、蓮の部下ではなく、俺の秘書としてだけどね。」
やはりそうきたか。この事は俺も彼女も、予め想定していた。そしてその場合の対策も。
「それは困りますよ〜!私は優秀な蓮さんの下で働きたいんです。」
「じゃぁ、入社は認められない!絶対に俺の秘書になってもらうよ!!」
彼女は俺に視線で合図し、言った。
「そういえば、料理遅くありません?」
田端の部下にそう言って微笑む。すると部下の男は直ぐに個室を出て行った。
それを見た俺と彼女は同時に立ち上がり、俺は個室の鍵を中からかけた。
「おい、蓮!何をする?!」
そう怒鳴りつけた田端に、俺は冷ややかに言った。
『黙れ、もうお前には嫌気がさしてね。消えてもらう事にしたよ。』
「なんだと?!ふざけた事を……」
そう言いかけた田端の言葉が止まった。俺が袖に止めておいたナイフを取り出し、田端の喉元にあてがったからだ。
「誰もふざけちゃいないわ。」
彼女は言った。
「てめぇもグルか…。」
田端の額には脂汗が滲んでいた。
『腕も能もないお前に用はないんだ。コネでやっとこの会社にいれる様な奴にはな。』
彼女は静かに田端の背後に歩み寄った。愛撫する様ように田端の腰に触れ、ベルトに挟んであったチタン製のオートマグナムを抜き取る。田端ははっとして彼女を振り返った。
「あら、常務さんったらお洒落。チタン製の銃って高いのよね。ましてオートマグですもの、これ1挺で車が買えるわ!!」
「そ、そうだ!だから返せ!」
俺は黙って彼女と田端のやりとりを見ていた。
「馬鹿みたい。」
「何だと?!」
田端は何度も瞬きしながら彼女を見る。
「だってそうでしょ?これで誰かを撃ったら、ライフルマークでアシがつくから、二度と使えなくなる。そうしたら捨てるわけ?もったいなくて出来ないでしょ?人を撃つ度胸が無い証拠ね。」
彼女は軽蔑しきった口調で話す。
「何言ってやがる。俺が腰抜けだってのか!!!」
「じゃ、返すからあたしと勝負する?」
彼女は胸の谷間から9mmを抜きだすと、田端の顎の下につきつけた。そして棒立ちになった田端の手にオートマグを押し付ける。
「どうぞ。いつでもいいわよ。」
『チェコスロバキア製、Cz75だ。』
俺は薄笑いを浮かべながら田端に言ってやった。
それを聞いた田端の目が激しく動く。爪先立ちになり、俺を彼女を見比べる。
「こ、こんなの、きたねぇぞ……」
「だから早く受取りなさいよ、自分の銃を!」
その時個室の扉がノックされた。ノブががちゃがちゃと回ったが扉は開かない。田端の目は扉に釘付けになった。
「大丈夫。鍵はちゃんと蓮がかけてくれたから。」
甘く囁くように彼女は言い、Czの撃鉄を起こした。
「楽しみましょ?」
田端の顔からは大量の汗が流れ、震えている右手がようやくオートマグを掴んだ。だが握り直そうとした弾みに床へと落とした。