レン-17
実際に組織の実情に触れてみなければ、日本麻取や国際的な麻薬取締機関であってもその結論には辿り着かないだろう。
突然もたらされた意外な情報に、彼女は混乱している様だった。
今日はここには泊まらず、自分の部屋へ帰る事を伝えると、俺に自分の携帯の番号を残し、足早に部屋を後にした。
本当は今日中にポルシェを渡してしまいたかったが、仕方ない。
それは明日以降に持ち越しだ。
倉庫に停めておけば、彼女は好きに使ってくれるだろう。
その夜、俺はINCのバックアップエージェントに連絡を取った。
『蓮だ、INCの本部に連絡を頼みたい。近い内に日本の麻取が捜査協力、もしくは摘発時の応援を要請してくるかも知れない。捜査対象は現在俺の潜入しているダークネス密売組織。要請があった場合はそれを請け、出来る限りの協力をするよう伝えてくれ。』
俺は独りになった彼女が、日本の麻取に連絡を取るのではないかと考えていた。
そしてそれを知った麻取はおそらく、国際的な麻薬取締機関に協力を要請するだろう。
そしてその要請を俺の所属するINCが請ける事になれば、摘発の際に余計な揉め事を作らずに済む。
つまりこの潜入捜査は俺と彼女が同じ戦線を張るだけでなく、INCと日本の麻取もが協力し合うのだ。
だが彼女も日本の麻取も、俺がINCのエージェントであり、彼女よりも先に潜入捜査に当たっている事は知らされない。
彼女達にとってはフェアじゃないかも知れないが、これが一番良いのだ。
そして俺はもう一件、ある所に電話をかけた。
翌日、俺は遅い朝食を済ませ、彼女の携帯に電話を入れた。
『今どこだ?これから迎えに行く。』
「仕事?何をするの?」
『人に会う。そう言えばわかるだろう。』
「わかった。用意するから1時間後に青山に来て。」
そして約束の場所で彼女を拾うと、彼女は驚く姿をしていた。
彼女が身に纏っているのは、ぴっちりと体に張り付き、下着を一切着けていないとわかる素材のタイトなパンツスーツ。
常務を本気でたらしこむつもりなのだろう。
『おっどろいたな。』
俺の第一声だ。
「何が?」
彼女は俺が何に驚いているのかわかっていながら、そっけなく答える。
『銃を扱う君も素敵だが、ブランド物を身に付けても似合うな。』
彼女はそんな俺の言葉を鼻で笑って流した。
暫くコルベットを走らせると、昨夜の電話の相手が待つレストランに着いた。
個室に通されると、そこには図体のでかい男と部下とそのおぼしい男が待っていた。こいつが常務、田端だ。
『はじめまして、常務。』
彼女はとびきりの作り笑顔で微笑んだ。
田端は胸をおさえ、大袈裟によろめいてみせた。
「すっげぇ!すっげぇ、すっげぇ、すっげぇよ!!豪華じゃん!華麗じゃない!レイラちゃん!!蓮から凄腕の女って聞いた時はもっとゴツくて色気の無い奴かと思ったよ!」
「どうも。」
「さ、座って、座って!」
田端は言って手を擦りあわせ、自分の隣の椅子をひいた。