半年後-1
“お前”が俺のそばからいなくなって半年。
“お前”とは顔を合わせるどころか、全く連絡を取っていなかった。
連絡先は変わっていないようだったが、いくら電話しても、“お前”は反応を示さなかった。
もう諦めていた。
“お前”は戻ってはこない。
あのときのことを死ぬほど悔やんだ。
『結婚』
このワードはタブーだったのか?
今は真意さえもわからない。
そりゃあ、人当たりのよかった俺だから。
この半年で数人の女性から交際を申し込まれた。
しかし勿論、俺は納得がいかず、“お前”を失ってからは女性との関係を完全に絶っていた。
今では愛想のない男だと周りに思われているだろう。
ただ俺は。
“お前”じゃなきゃだめだ。
それしか考えられなかった。
俺は“お前”がどこに住んでいるか知らなかった。
“お前”はヘラヘラしながら
結婚するときにおしえたげる
の一点張り。
意地でも聞いておくんだったと、また後悔。
一目でも“お前”の顔が見たい。
一言でも“お前”の声が聞きたい。
いくら考えたってはじまらないんだけど。
“お前”はとっくに新しい彼氏でも見つけているのかな。
懲りもせずまた考え、寝返りをうった。
翌日のことだった。
知らない番号からの着信。
ハッとした俺は素早く通話キーを押し、携帯を耳に押し当てた。
信じられなかった。
“お前”が病院にいるなんて。
“お前”のお母さんが、電話くれたんだよ。
俺にとって、お母さんは救いを差し延べてくれる神様だった。
しかし、同時に俺は精神を奈落の底に落とされたんだ。
癌。
ガン。
がん。
この二文字が延々と頭の中を駆け巡り、他のことは考えられなかった。