My name is…-2
消毒の匂いが充満してるところとか、白で統一した部屋の色とか、学校の保険室と変わりないように感じるけど、部屋に入るだけでなんとなく不安になるところがあそことは絶対的に違う。
「今日はどうされました」
禿げかけた頭を撫でながら、若いのか年寄りなのか分からない内科医が、台本を読むように聞いてきた。
てゆーか、さっき待ってる時書いたじゃんよ…読んでねぇのかよ。
「熱っぽくて、喉が痛いです」
「風邪ひいたんだね」
だからここに来てンだよ!
ムカつきは止まらない。治療が必要なのはむしろこっちのほうかも。
喉の腫れ具合を見られてる時も、聴診器を胸に当てて息を吸ったり吐いたりされられてる時も、イライラしっぱなしだった。もうどうでもいいから早く帰りたいとばかり思っていた。てゆーか、何で学校休んでまで病院なんかに来たりしたんだろう?とさえ思った。
カルテにミミズが這ったような字を書いた後
「じゃあ薬出すから外で待ってて」
と言われた。黙って部屋を出た。
やっと帰れる。なんかよけい悪くなった気がするな。
診察室から出て安堵の溜め息を吐いていたら、さっきの看護士がクスリと笑った声が聞こえた。
「お大事に」
そう軽く言った彼女の胸元に留められた名札を目にした。
「あの…すいません」
「はい?」
なぜかオドオドしながら彼女を呼び止めて
「それ何て読むんですか?」
と、名札を指差して聞いてみた。
「?…ババだけど」
そこには『馬場』と書かれていた。
「ジャイアント?」
そう言ってしまってからシマッタ!と思った。それがそのまま態度に出ていたのか、馬場さんはまたクスリと笑って
「よく言われるから」
と軽く言った。
「すいません!バカにするつもりじゃなかったんです!」
「いいって。慣れてるから」
慣れてる…。その言葉に余計罪悪感を覚えた。
「ホント気にしないで」
と立ち去ろうとする馬場さんをまた呼び止めた。
「実は俺…違うんです」
「何が?」
怪訝そうに眉を寄せ、小首を傾げた馬場さんの仕草に少しドキッとしたりした。
「名前、ホウジョウじゃなくて…キタジョウって読むんです」
「え、そうなの?」
「よく間違われるからいいんですけど」
てゆーか、何でこんな所でこの人にこんなつまらない話をしているんだろう。こんなこと話してどうなるんだろう。
頭の中でグルグル回ってる音が聞こえた気がした。
「じゃあ、おあいこね」
馬場さんがクスリと笑う。
もう一度「お大事に」と言って立ち去る彼女の背中を少しの間見ていたかったけど、なんだか変態じみているように思えて急いで受付に向かった。
小一時間たっぷり待たされて、受付から呼ばれた名前はまた「ホウジョウさん」だった。
なぜか少しもムカつかなかった。