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秘中花
【幼馴染 官能小説】

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秘中花〜堰花〜-1

初めて亜蓮と“ちゅっ”したのは7つの時。
“ちゅう”したのは11歳の時。TVドラマで仁忍兄さまと“ちゅう”していたから、私にもしてと。
もっともっとしたかったけど、亜蓮は許してくれなかった。
こんなに好きなのに…っ!
「今は駄目だよ、凛子」
亜蓮はいつも困った顔で、抱きついた私の身体を引き剥がす。
見ているだけでも触りたくなるのに、何で駄目なのかな〜?
「いつか、いつか…もう少し大きくなってからね」
あの儚い微笑みで、亜蓮は私を子供扱いする。
“ぎゅっ”としたいのに…。
悔しくて悔しくてもっと困らせたくなるんだ。
だって亜蓮、優しすぎる。
傷ついちゃうほど突き放してくれたら、こんなに想うことはなかった。
あんまり優しくて私、期待しちゃうんだ。
亜蓮に追いつきたくて、早く早く大人になりたかった。

諦めるなんてできないよ。

亜蓮は私の一部。
梨園名門に生まれながらも女人禁制の歌舞伎環境に、私は中途半端な存在。
でも亜蓮を好きになって初めて、女の子でよかったと本当に思う。
だから、だから…。
我慢強くて、物静かで、淋しそうで…。
ねえ、亜蓮。
今ならわかる。
亜蓮の「いつか」は揺るぎない約束。
私を守るための呪文。心の準備でもあったんだね…。



室町時代に発祥されて700年近い伝統をもち、能シテ方五座で最大の規模を誇る観水流。
観阿弥・世阿弥父子によって完成された能には、永遠のテーマがある。

『幽玄』と『花』だ。

特にシテ(主役)は、神・霊・鬼など非人間的な役柄が多い。
“生”に溢れた狂言と違い、能は“死”が焦点だ。
“死”を見つめながら、決して“死”ではない重荷を演じなければならない。
それを見事なまでに体現できるのが、能楽界のホープ・若月亜蓮。
幼少より際立った容貌と天性は、24歳になった今もますます美しく冴え渡るばかり。
地上に舞い降りた天女の如く。
30代で開花するという極致『まことの花』を、10代で咲かせて…。


春の定例能で、シテを務めることになった亜蓮。
観水屋敷の、弟子ですら立ち入れられない奥稽古場で、扇を手に亜蓮は舞う。

能曲は『熊野』。
愛する人に病床の母への見舞いを許されず、花見に連れて行かれる。
そこへ、突然の雨。
無惨に散る桜に母の命を重ねて悲嘆する熊野に、ようやく帰郷を許される…華麗なる名作だ。

その傍らで謡うのは、観水流を総括する家元、24代目宗家・観水基世(かんみ・もとよ)。48歳。
亜蓮が7つの頃から指南した、いわゆる師匠でもある。
何1つ逃さない視線が亜蓮を追う。
ひしひしと伝わる不気味さに惑わされぬよう、亜蓮はただ無心に舞い納める。
「舞が変わったな…」
呟く宗家に一瞬、心が揺らぐ。
凛子を思い出したのだ。
(今はまだ知られる訳にはいかない…)
「そうですか」
「優しくなったな…」
ゆったりと正座を解して近づく宗家。
銀縁の丸眼鏡の柔和な顔立ちに似合わない鋭い眼光。その奥深い闇を、恐ろしさを、亜蓮は知っている。十分すぎるほどに知っているのだ。
「ありがとうございます」
涼やかに答えた亜蓮。
疚しさで騒めく心音を悟られぬように。


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