秘中花〜堰花〜-9
「赤いの、何…?いっぱい、ある…」
亜蓮の肌に散る無数の、濃く赤く、禍々しい情痕。
「キスマークだ」
諦めに似た正直さがかえって、凛子の嫉妬を醜くした。
「やだぁ!駄目っ!亜蓮の馬鹿っ!」
疲労も眠気も吹っ飛んで、バシバシと亜蓮の胸を叩く。
「あぃ、っ…いて、ぅ…ぐおっ?」
馬乗りになった勢いで、凛子は亜蓮の胸をかきむしる。
「いっ!!」
苦痛に歪む亜蓮。
「こんなの!こんなのっ!」
見たくない見たくない。
消してしまいたい消してしまいたい。
「凛子っ!」
亜蓮に手首を掴まれる。
わかっているわかっている。
約束は求めない。期待してはいけない。側にいられるならば…っ!
「なんで、…なんで?」
涙があふれた。
悔しくて悔しくて止まらない頬を、亜蓮の手が包んでくる。
わかっていた、ずっと昔から。今まで知っていて、見て見ぬ振りをしてきた。
赤い印がどんな意味を持つのか。
綺麗だけど、ただ綺麗なだけじゃない。喜怒哀楽が最小なくせに器用で、変に笑い上戸だとしても…。
決して私だけの亜蓮でいてくれない事実に、思い知らされる。
「…それでも、俺が好きなんだろう?」
「好き…」
こんなにも好き。
私ばかりが好きすぎてつらい。
亜蓮の口唇が、私を慰める。涙を吸いとる。
優しく。
優しく。
抱き締められる。
亜蓮は狡い。今一番欲しい言葉はくれないのに、どうしてこんなに優しいの?どうして期待させるの?
嫌いになんかなれないよ。
「亜蓮は、私のものなの…」
ずっと何年も待ち焦がれてきた。幼馴染でいるも子供でいるのも、もう嫌だ。
「うん、いつかね…」
俺は淫乱だ。
凛子の嫉妬にさえも欲情した。引っかき傷はむしろ、甘い勲章。
赤い情痕を上塗りするように、凛子の唇が亜蓮の裸体を彷徨う。
「もっと、吸え…あっ、上手だ…はぁっ」
同じく亜蓮も口づけを返す。交互の体を赤く散らしながら。
乳首を押しつぶすように弄れば、同じ愛撫が返る。
「…お尻にも、いっぱい…」
「うん、舐めて。…できる?」
軽い挑発にすら負けじと、凛子の口舌が蜜袋から肛門へと這う。亜蓮の肉棒を、右手で擦りながら。
「はぁ…あ…いいよ」
ぞわっと、快感が背中を駆け抜けた。
凛子の胸が、腹で柔らかく揺れている。艶やかな濡花が今、この顔上で物欲しそうに喘いでいる。
舌を伸ばす。
「あぁんっ!」
吸う。同調するように、凛子も肉茎を口に含む。
「う…っ」
後蕾を撫でる。
「んん…」
同じく凛子もそこを撫でる。
「あ…」
頭がぼやける。
思わず腰が揺れる。
その媚態に興奮したのか、凛子の愛撫が激しくなる。
「くはぁ…、っ!」
負けていられない。
濃厚なお返しと言わんばかりに、口指でかき回す。
「ひゃあぅ、…駄目っ!」
ぴくんっ、俺の上で凛子の反応が響く。
下腹部が熱い。
どくどく、鼓動と共鳴するようにそこが脈打っている。
「く…ふぅ」
凛子の口が俺を追い上げる。
それならば、達くときも道連れだ。
濡れて滴る蜜を啜り上げる。
「はあぁ…はふ、んふぅ」
競うように官能を爆発させて、繰り返し繰り返し抱き合う。
安心という忘却に、敷布を乱しながら――…。