『月下』-2
「全く…オッサンが邪魔しやがって」
背筋が凍りつく。
(怖い…怖いよ…)
私は父の肩をぎゅっと握った ―― その瞬間、
父は私を後ろへ突き飛ばした。
そして、私が尻餅をつくのと同時に、父は男に馬乗りになられて、殴られた。
何回も、何回も。
ぐちゃ… って、嫌な音がし始める。
私の足はガクガクして、
目からは壊れたみたいに涙が溢れ、
口はバカみたいに開いていた。
コワイ
コワイ
コワイ
トウサンガシンジャウ
目の前が、真っ赤になった。
殴られる父さんも、殴る男も。
感情が、怒りが、溢れ出す。
「やめてーっっ!!」
溢れ出たものが、全て声へと変わった。
そして、私は、見た。
私の声の波動が、辺りの草を吹き飛ばしながらカタチを成していったのを。
そして、それが、父と男へぶつかるのを。
瞬間――
全ての音が消え、スローモーションのように、父と男の皮膚が裂け、血が吹き出し、肉が――
肉が、ぐちゃぐちゃになっていった。
――月の下――
目を見開き、座り込む、私。
ぐちゃぐちゃの肉片にまみれた2体の人骨。
その周りは花が咲いたように、赤い ――
ドンッッ
両手を机に叩きつけた音が、静かな部屋に大きく響く。
毎日、忘れたくても忘れられない。
4年間、ずっと。
いや、忘れてはいけないんだ。
私が、父を殺した。
この能力で。
私は感情を高ぶらせてはいけない。
大声を出してはいけない。
中学1年のあの日以来、私の人生は大きく変わった。
世間や警察、誰も私を咎めなかった。
誰も私がしたことだとは思わなかったから。
でも、私が母に全てを話したら、母だけは、私を責めた。
『ヒトゴロシ
アクマノコ
ワタシノコジャナイ』
その目で。怯えた目で。
――ワタシノコジャ…
頭を抱える。
ようやく普通の生活が出来るようになった。
学校へも行けるようになった。
でも私には、友達が居ない。
誰かを傷付けるのが怖くて、会話ができないから。
そして、私には、母が居ない。
どうして?
どうして私がこんな目にあうの?
涙が ひとつ こぼれた。
「…ふっ…」
堪えてた声が、もれた。
窓ガラスが、粉々に、吹き飛んだ。