過ぎ去りし日々-4
「ウチのオリジナルで“希望”っていうんです]
「じゃあ乾杯しよう」
「何に乾杯するん?」
「そうやな……知らんモン同士、こうして呑めた事に!」
“乾杯!”と二人で言ってグラスを合わせる。“いただきまーす”と言って彼女が一口呑む。一生はグラスを持ったまま、彼女の第一声を待っていた。
「お〜いしい!甘酸っぱい!」
マスターはニッコリ笑うと、
「ジンをベースにカル〇スが入ってます。後は色々と…」
「ああ!それでこの色。でも名前通りやね。この甘酸っぱさは青春ゆうか希望いうか」
「何かしてんねん!まだ青春や。君ィ!幾つや?」
「19…」
彼女はやや膨れっ顔でそう言った。
「オレかて、まだハタチや。そんな人生終ったような……」
「楽しかったンは中学までやったわ」
彼女は、子供の頃から今に至る自身の話を語り出した。
「アタシ、中学でバスケやってたんよ。結構強い中学生で。で、高校でもやろうと入部したらイジメに会うてな…」
“どこにでもある話”と一生は思った。彼女のそこからの話は、だんだんと深くなり、2人のグラスを傾ける回数も増えていった。
「そろそろ閉店なんだけど……」
話に我を忘れ話をしていた2人を、マスターの一言が現実に引き戻した。言われるままに店を出ようとした時、彼女が言った。
「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに…」
しばらく彼女を待って店を出て階段を上がる。外は真っ暗でなく群青色に変わりつつあった。
マスターと3人で外に出る。
「マスター。今何時?」
「…4時半」
一生はマスターにお礼と謝りを繰り返しながら、別れた。こんな時間帯、周りを見てもタクシーの姿は皆無だ。
「オイ、クルマおれへんから天神駅まで歩くゾ!」
彼女から返事がないが頷いている。一生はヤバイと思った。彼女はカクテルを4〜5杯は呑んでいた。カクテルは呑み易いかわりに悪酔いもし易いのだ。
「歩いて10分や。それまでガマンせえよ!」
そう言って彼女の手を引いてゆっくり歩き出した。あまり早く歩いて彼女の悪酔いを助長しないためだ。
そうしてると前方に公衆トイレが見えた。
「ちょっとココに居ってくれ」
そう言って一生は彼女を歩道の端に座らせて、道路向かいにある自販機でミネラル・ウォーターを買って帰って来た。