Out of reality the world-1
【1】
「僕は……なんでこんな所にいるのだろう?」
僕の周りに広がるのは、さっきまで広がっていたアスファルトや住宅街ではなく、それらとは打って変わって緑生い茂った草花達だった。微かに吹く風によってゆらゆらとその小さな体を揺らし、葉と葉を擦り合わせてきれいな音色を奏でている。そんな草花達を守るかのように聳え立つのは大きな木々達。
密林したその木々の隙間からは太陽光が漏れ出し、光の線が地面に向かって降り注いでいた。
そんな、今までいた人工的な場所ではなく、自然あふれる空間に僕はポツンとただずんでいるわけで……。
――これは夢なのだろうか?
目の前の光景に対してそんな疑問を思い浮かべたが、この地肌に感じる熱々しい熱と、その熱によって滲みでてくる汗がワイシャツにベッタリとくっつく不快感がそれを否定する。この感覚は夢では到底味わえないものだろう。つまりここは、夢なんかではなく、現実で……。
だけど、一体何故僕はこんな森の中にいるのだろうか? 休日になにもやる事がなく、久しぶりに運動しようとジョギングに出かけた僕だが、それが気づけば森の中で、さっきまでいた場所とは全然違う場所。
ふと、僕はズボンの後ろポケットから携帯電話をとりでして、ディスプレイに写る時刻を見る。
――PM 1:25
僕が家を出たのが1時くらいだから、この場に来る寸前までの時間はたぶん今携帯が示している時刻とほぼ同じだろう。だとしたら、あの場所からこの場まで一瞬で移動したことになってしまう。だが、これは現実だ。感覚もあるし、鼻につくこの緑の香りも現実……。
まるで元から合っていないピースを組み合わせるように考えようにも考えれば考えるほどわからなくなってしまい、次第に焦りと不安が汗と一緒に滲み出るような感覚に襲われる。
「はぁ……」
やっぱりこれが現実だとしても、結果的に、瞬間移動したことにはかわりがないんだ。ほんと、いつから瞬間移動のスキルを身につけたんだよ僕。そんな孫○空みたいな事できないよほんとに。これは、あれか? 普段運動なんかしないくせに、いきなり運動なんかしてんじゃねえぞ!っていう神様からの忠告なのだろうか? いや、もしかしたらやっぱり僕が知らぬ間に瞬間移動をしていて、よくアニメなどで突如異端な能力に目覚めた主人公みたいに、僕もそのような能力に目覚めたのだろうか……。だとしたら、なんて不便な能力なのだろうか。意識して瞬間移動ができれば、それはそれは、あんな事や、そんな事ができるわけだが、自分の意思とは反して能力が発動するなんて不便にもほどがある。
「って、こんな時に何を考えてるんだよ僕は」
少しずれた事を考え、気づかぬうちに現実逃避をしていた僕は、今自分がするべき事を考える事にした。
今の時点で分かる事はここが森だという事だけ。なぜ自分がこの場所にいるか、どうやって来たのかはもう考えても分かりそうもないし、とにかく、今はこの森を向ける事だ。携帯電話の電波マークが一本も立っていないことから家へと連絡もとれないし、森を出ることができたら電波が回復するかもしれない。まぁ途中で回復する可能性もあるのだけど。万が一森を向けても電波が回復しなかったら、どこかで助けを求めることができるかもしれない。
僕はそう決めると、近くに落ちていた小枝を拾い上げ、足で地面を平らにしてからおもむろにその小枝を立てた。そして手を離すと、当然凸凹とした棒状の小枝は倒れるわけで、僕から見て左上へと倒れる。どうやらその方向に出口があるらしい。いや、すごく適当だけど、出口の方向がわからない今の状況、原始的かつ優柔不断の僕にとって効率的な決め方である。
「よしっ」
小さく気合をいれて、再度小枝が指した方向を確認し、そしてゆっくりと見えぬ出口に向かって歩き出した。