代名詞交奏曲-1
アタシは寒いと思ってる。少し前から。
奴はその事に気付きもしない。気付いているのかもしれないけど、とにかく自分はぬくぬくとしたマフラーに顔を埋めてる。
『…一人目の男はとにかく馬鹿だった。あいつの目はいつも胸か尻にいってて、あの頃のアタシはラブホの常連だった。顔はまぁ良い方だったけど、教養も糞もない奴。病気うつされて別れた。』
これはアタシの小さな警告。奴への。
『二人目の男はガキ過ぎた。「ずっと愛してる」ってのが口癖。これからの事なんてわかんないのに。結局別れちゃった訳だしね。ベタベタベタベタ。毎日美味しい物食べさせてくれた。金だけはやたら持ってた。話のネタはしょぼくて、いっつも愛想笑いしててやった。ちょっと浮気したら泣かれて。そんで終わった。三人目は…あ。駄目だ。覚えてない。てことは忘れるくらいつまんない奴だったって事だね。四人目はアタシ、ちゃんと好きだった。男の為に初めて泣いたのはこの時。冷たい奴だった。ずっとチヤホヤされてたから、新鮮だったんだと思う。』
ここまで一気に話した。アタシはウーロン茶に手を伸ばす。
「…なんなの?」
ウーロン茶は予想以上に冷えてて、さっきよりもアタシの身体は寒くなってしまった。奴はまた口を開く。
「なんで急に昔の男の話すんの?」
これはアタシの警告。小さな小さな警告。
『五人目はアタシより友達が大事な人だった。優しいんだけどね。言い訳ばっかり。会わなくなって、自然消滅。ていうかね、メールすら来なくなったんだよね。これは不味いでしょ?』
「まだ続くの?」
アタシは意地悪だ。
奴は感づいてるのかもしれない。これが警告であり、ばいばいの代わりだと言う事も。
アタシは疲れてる。少し前から。
ウエイトレスが、半分もウーロン茶が残っているコップを連れ去った。
時間は確かに過ぎているのだ。
「続くようなら帰る。つまんない。」
奴は馬鹿でガキ。
『あんたは12人目。』
奴はつまらない、そして冷たい。
「帰る。」
奴が立ち上がって、そして携帯を取り出す。時間を埋めるために。
奴は優しい。友達が宝物。
奴の嫌な所を責める、アタシは意地悪。
13人目にメールする、アタシはただの馬鹿。