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しにがみハート
【コメディ 恋愛小説】

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しにがみハート#10-1

絢芽が消えた。
それは意味が解らなく、もっともどうしていいのかすらも解らなかった。

「……っは…は…」

真夜中の商店街、路地、ちょっと古びた廃屋まで探しても、彼女らしきシルエットは浮かび上がらなかった。
理人に助けを求めようと思っても、何も知らない奴に絢芽が消えた理由は説明出来るもんじゃない。姫雪も……

姫雪?

確か…姫雪は天使だとかなんだとか絢芽が言っていた。
っていうことは、何かが解るかも知れない。
すぐに俺は、手元の携帯電話を取り出した。
「……もしもし」
やけに眠たさそうな声で、携帯ごしに姫雪の声が届く。
「あ、ごめん、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「絢芽ちゃんのことでしょうか」
「…なっ…!?」
姫雪が何故、絢芽のことを知っているのか、ということより、姫雪が何か仕組んでいるんではないか。という思いが巡った。





「絢芽ちゃんが消えた理由、ですか」
直接会って話そうということになり、真夜中の公園のベンチに二人で座る。
「教えて欲しい。絢芽が何をしたのか」
すっと姫雪を見る。
「…わかりました。良いでしょう。…まず絢芽さんは解らないと思いますが、私は絢芽さんと同級生でした」
「…」
ゆっくりと説明しだした姫雪に、俺は耳を傾けた。
「私は病気で、学校にあまり来ることも出来なかったんですが、それが原因で頭も悪かったし、何よりいじめられていた」
うん、と頷く。
「そんな時に絢芽さんが助けてくれたんです。イジメっ子達を次々に倒していって。しかも私に勉強まで教えてくれたりしました」
「…絢芽らしいな」
「そしてその翌月、私は病気で死にました。葬式は誰にも教えなかったのに、絢芽さんは一人で来てずーっと泣いてくれました。その時、私は絢芽さんを助けると決めた」
次第に強くなっていく口調で、さらに続ける。
「でも私は、絢芽さんの死を止められなかった…!! だからせめてもの報いに、絢芽さんの罪を消そうと努力しました」
「罪?」
「死神の役目を放棄。人間界長期滞在。世界の均衡を崩し続けてるのと同じです」
心底元気のない声で、姫雪が続けた。
「今、絢芽さんが放棄している事柄は……『綾瀬孝紀の殺害』」
「…だよな……」
「絢芽さんを助ける方法は2つ。貴方が絢芽さんに殺されること。そしてもう1つ、リスクが大き過ぎますがどっちも助かる方法があります」

「教えてくれ。死んでも敵わない」

満月が、雲に隠された。


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