分かって欲しい-1
「ただいまー」
玄関からユウ君の声がした。
私は嬉しさのあまり、フローリングに足を滑らせながら、部屋を飛び出す。
「ただいま、花」
[お帰り〜!]
飛びついて手足をバタつかせて、喜びを全身で表した私を、ユウ君は受け止めてくれる。
顔を寄せて、抱擁を要求する私を、抱きしめてくれる。
「分かった・・・・分かったから。花、待てって」
落ち着きのない私の頭を撫でるユウ君。
「先にご飯作ってやるから」
笑いながら、背中をポンポン叩くユウ君。
私の日常は、平凡だった。
仕事に出掛けるユウ君を見送って、帰りを待つ。
ご飯を作ってもらって食べる。
一緒にテレビを見る。
二人でじゃれ合う。
そして、寝る。
何の変化もない毎日だけど、私は幸せだった。
ユウ君と一緒にいられるから。
撫でてくれる大きな手も。
『花』って呼ぶ声も。
タバコの染み付いた匂いも。
全部、包み込んでくれる優しさが、大好きだから。
それに、嬉しい時間だってある。
休みの日曜―――。
「行くぞ、花」
ジョギングコースを二人で散歩。
ただそれだけで、私は楽しい。
ピョンピョン足を弾ませるほどの、幸せな時間。
「花・・・来い!」
ユウ君が走り出す。
[待ってぇ〜]
私も走り出す。
風を受けて、大空の下での追いかけっこは、本当に嬉しい。
でも・・・一つだけ嬉しくないことがあった。
この幸せなひと時を邪魔する人。
ユウ君と私の貴重な時間に、度々、現れる人・・・・。
「祐次」
馴れ馴れしくユウ君を呼び、
「おう、真由美」
ユウ君の笑顔を、これまで以上に輝かせるこの人の登場が、私はイヤだった。