評価-1
かつて、皇帝と呼ばれた男がいた。
彼は今、数人に囲まれながらベットのなかにいる。しかし、彼の服装も部屋もなにもかもが、全盛期の彼からは想像もつかなかった。
常将軍、そう呼ばれたこの男の面影は、鋭く光る眼光だけだ。激しく痛むのだろう、彼の顔は苦痛に歪んでいた。
胃癌だった。
彼はワーテル・ローの戦いの後、ここに送られた。本国では王政時代を誰もが懐かしんだ。鷲は死にユリが再び咲いた。彼は大西洋の孤島での生活を余儀なくされ、胃痙攣も日増しに激しくなった。
だが、今や本国では彼は英雄だった。たった数年で彼は英雄から悪人、そして再び英雄になった。時を同じくして、多くの同時代人が死んだ。ブリュハー、マダム・タリアンそして今、彼も死のうとしている。
一瞬、彼の顔が綻ぶ
『先頭、軍………』
それが、彼の最後の言葉になった。彼は、物言わぬ骸になってから再び歓迎を受けるのだろう。
数年前、彼を悪人と呼び、彼を死に追いやった者達から…………
完