tell me-1
夜の公園の冷たいベンチに座り、私はアイツを待っていた。
手袋をしてもかじかむ手。
雪はなくとも、やっぱり冬は寒い。
イヤフォンのボリュームをひとつさげて携帯を握った。
…少し、早く来すぎたみたいだ。
夜の公園なんて、カップルのたまり場だ。
「はぁ…」
白い息を見て思う。
私とアイツが知り合ったのも、吐く息が白くなるくらい寒い日だった。
―もう、一年経つんだ…―
去年の今頃は、1ヶ月連絡が来なくても平気だったのに、電話が来ても名前を言われなきゃ誰かわからない、そんな程度だったのに、いつからだろう?
こんな風になったのは…
「凜?」
「…あ、」
「なにボケっとしてるんだよ」
そう言って笑いながら髪をなでた。
ずっと下を向いていた私は、全くきづいていなかった。
「お疲れさま」
私は安心して、にこにこしながら立ち上がる。
「何時まで?」
「あと、…2時間くらいかな?」
そう言って私は、アイツのコートの袖口を掴んだ。
出来るなら手をつなぎたいけど、手に触れる勇気はない。
「どこ行く? なんか食いたいのある?」
「…」
少し間をおいて、私は言った。
「…あのね、」
「ん?」
ずっと、言いたかったコト。
…ずっと、行きたかったトコ。
「翔司んちに行きたい…」
「…」
一瞬の沈黙。
「あっ あのね、ダメならいいのっ ただ、…」
「いいよ」
「へ?」
ダメもとで言ってみるものだ。
まさか、こんな日が来るなんて…
私のテンションと口の端は一気に上がった。
「…でも、来ない方がいいと思うよ?」
「えっ…?」
「前の彼女のもん全部置きっぱなしだから」
「…」
その瞬間、私は固まった。
翔司がモテることなんて、別に今わかった事ではない。
前に一度、聞いたことがあった。
数えるのも思い出させるのも面倒くさいくらい。
…付き合った女の子も、寝た女の子も。
予想出来ない事ではなかったのに。
「お前、いい気しないだろ?」
否定するべき?
肯定するべき?
頭に浮かんだのは、2つの答え。
ねぇ、どっちが本当なの?
信じていいの?
それとも…
私は、何も言えなかった。
「面倒くさいんだよなぁ… 捨てたりすんの」
聞こえるか、聞こえないかの小さな声で、翔司は呟くように言った。
…私は、掴んでいたコートの袖を、そっと離した。