FULL MOON act1-1
彼は私の手首を強く縛る。私の両手を頭の上で交差させるように。
それはずっと首の下からかかっていた水玉模様のネクタイで、彼がネクタイをはずした時からちょっと変だなって思ってた。
「や…やめてください」
「だめだよ…」
彼は甘い声をして耳元で囁く。私の背中はぞわ、と鳴いた。これは本格的にやばい…
なんでこうなったんだろう…
私達はちょっと前までみんなで飲んでいた。彼は同じバイト先の社員で、私が酔いつぶれてしまったから責任もって送る、という任務をおっていた…はず。
そよ風が顔にあたる。
「あ…。すいません…私寝てました?」
「ちょっとね」
彼はベンチに座って私を介抱していてたみたい。
「…ホントすいません!ここから、うち近いんです。ここで大丈夫ですよ」
「そんなに?」
「この公園をつっきれば、すぐ」
と、向こうにかすかに見えるマンションを指す。彼は目を細めてマンションを見て、遠いじゃん、危ないよ、と呟いた。それにもしものことが安西さんにあったらヤバいし、と。
「あ…でももう酔い覚めましたし、終電なくなりますよ?」
「とっくにもうないよ」
「え…?」
腕時計をチラ、と見る。2時15分。
「え…私…そんなに寝てました?……すいません!ど、どうします?」
「まだみんな飲んでるから後で合流するよ。だから平気。それとも、俺が心配?」
と、クスと笑う。私は喉まででかかった「(私の家)泊まります?」という言葉を飲み込んだ。その言葉を思い浮かべた自分が恥ずかしい。見透かされてるような気がした。
「じゃあも少し休んでこうか。安西さんまだ酔ってるしね」
「あ…はい」
彼は、バイト先の中でも仕事は出来るけど、優しいから面倒な仕事を抱えこみがちな人だ。どんなに忙しくて疲れても慌てないし、そつなくこなす。だから影なざら人気だ。今日だって可愛い子にいいよられてた。けど眉毛一つ動かさないから実はゲイじゃないかって噂。
「あ…」
今日はキレイな満月。空を見上げると空に黄色の丸が穴をあけてる。
「はい」
彼は私の頬にヒヤリと何かをつけた。
「え?あ、ありがとうございます…」
それはMコーヒー。私はこのコーヒーが大好きだ。嬉しい。缶をあけて流し込む。甘くもなく苦くもない調和のとれた、それ。
彼は違う苦そうなコーヒーを飲みながら隣にいる。私は不思議なこの状況に少し緊張した。
「ねぇ…安西さんさ」
「はい?」
私は緊張を悟られないように必死に冷静を保つ。
「さっき俺にしたこと覚えてない?」
「…はい?私何かしました?」
「……そっかぁ」
残念そうにため息をつく。「え?え?私そんなに酔ってました?」
「ケイタって、言ってたよ」
ボボ、私の顔は赤面した。「あ……すいません、それ…元カレで…最近別れたばっかりなんです」
「それで飲みすぎたの?らしくないなぁって思ったら」
うつむく。